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住宅メーカーの住宅
整形格子上の自由:ミサワホーム・DEBUT家族新話
1.規格化された自由
玄関や階段、そして水廻り等の住宅用途に必要な非居室部分のみ位置を固定し、それ以外は自由な諸室配置を可能とするユニバーサルなスペースを用意する商品企画。 自由空間とかフリープランなどと呼ばれるこの手のモデルは、様々なメーカーから幾つも発表されてきた。
しかし自由と謳うほどに如何なるプランも可能かといえば、否。 ユニバーサルスペースの外形。 そしてユニバーサルスペースと固定された非居室部分の位置関係。 更には日本古来からの6帖や8帖といった慣例的な室の形状及び広さ。 それらによって、プランには大きな制約が課される。 結局、ありきたりのパターンの組み合わせの中から個々にとっての最適解を見い出さざるを得ぬ。
となると自由空間を謳う商品性の差別化は、当たり障りのない現実的なプランバリエーションを予め如何に多種用意するか。 そして個々のバリエーションにどれだけ商品的な魅力を付与し、アピールできるか。 更には、バリエーションの設定を補完する可動の間仕切りや収納等のアイテムをどれだけシステム化し得るか。 その辺りが商品開発にあたっての課題となる。 即ち、古来からの慣例的な室の寸法体系によって規定される整形グリッドの内側で、独自のシステムに制御された組み立てを念頭とした「自由」という商品性が流通する。
更には、一切間仕切らない、何も置かないプレーンな状態のユニバーサルスペースを基本コストとして提示することで、ローコストのアピールを可能とした。 但し、制御された自由の中で個別の間取りを形づくる過程で追加される間仕切りや収納等のアイテムがコストに上乗せされ、いつの間にか工事費はローコストの範囲から逸脱する。
2.S型NEWからの空間可変性強化
※1

ミサワホームS型NEW外観*
同モデルの詳細は、当「住宅メーカーの住宅」の別ページに登録。

DEBUT家族新話の発売は2001年4月1日。
そのプランの骨格は、同社が1982年4月28日に発表したミサワホームS型NEW※1に類似する。 即ち、南北に2行、東西に3列、計6マスの整形グリッドに基づく。
従って、外観意匠にも類似性が見い出せる。 全体のプロポーション、外装パーツの仕様及び意匠、そして外壁のテクスチュア等に20年弱を経た時代の嗜好の変化を考慮した調整が施された程度の微差に留まる印象。


DEBUT家族新話外観*

屋内のプラン構成も、一瞥した印象は同様だ。 違いといえば、S型NEWでは玄関脇に配置されていたサニタリーを北側中央のマスに移設。 替わりにサニタリーの元の位置に広い納戸が設けられた程度※2。 しかしこの措置による商品性への影響は実は大きい。 それは、上下階共に北側中央のマスに非居室用途をコアとして集中させる意図と読み取れる。 コアの一極化により、他のマスがユニバーサルなフリースペースとなる。
実際、一階においては北側中央の非居室コアと、そこに隣接する玄関廻りのマス以外に存する8帖を一単位とするL型の4マスを、そして二階は北側中央のコアをコの字に囲む5マスをフリースペースとして規定※3。 そのことを商品の特徴に位置付けている。
いわば、S型NEWの組み立ての中に仕組まれたフリープランへの展開性。


DEBUT家族新話49-2Wタイプ平面図*

S型NEWは、一階の南面にリビングルームと二つの和室を続き間とした空間を商品の特徴に据えていた。 広告にも、その続き間を捉えた画像※4が用いられた。 この三部屋は、室同士の境界に設けた引違い襖の開閉によって一体化も、そして個室化にも対応する。 そしてその操作によって得られる空間の可変性による様々な生活シーンの演出を指向した。
DEBUT家族新話では、S型NEWの和室を全て洋室に置換しリビングルームとインテリアを統一。 更にS型NEWでは固定であったキッチンの位置も可変化※5。 二階においても間仕切りを排除。 両階通じて空間の可変性強化が図られた。

※2
本文記述の違い以外に、各マスの広さの違いや屋根勾配を活かした小屋裏収納の付加等の微差も見受けられる。

※3
本文中に引用した図面には、フリースペース内の各マスの境界の一部に建具や壁による間仕切りが記載されている。 これは一事例であり、住まい方に応じ別の境界への任意の間仕切りも可能とした。

※4

S型NEWの南面三室続き間*

※5
引用した平面図は、北東にキッチンセットを配し、そのマスをDKとしている。 しかし例えば、南西のマスにキッチンを配し南面三マスをLDK化。 北東のマスに和室を配す組み立て等も一つのパターンとして提案された。

3.企画住宅における可変空間

※6

玄関脇の納戸内部*
一階の間仕切りに用いる建具が収容された状況が確認出来る。
障子高さを天井までではなく途中に渡した鴨居までとしたのは、納戸への持ち運びの作業性への配慮であろう。

※7

二階の計画事例*
ここでは、南面中央と南東、そして北東の3マスを連続させた矩折の空間を主寝室にあてている。 画像手前の南面中央のマス上部に、小屋裏収納へと連続する屋根形状に合わせた勾配天井が見える。

一階にL型に形成された8帖4マスのフリースペースは、引戸の任意設置によるマス同士の間仕切りが提案された。 マスの境界に鴨居を渡し、荒間障子を思わせるアルミ製建具を用いた4枚二本引戸。 鴨居直上の欄間にあたる部分は開放されているため、引戸を閉じた状態でも室同士のある程度の連続性を保つと共に、隣室の気配が伝わる配慮がなされている。 間仕切り建具を用いて空間を柔らかく仕切る、若しくは繋ぐ発想は、日本古来の空間作法の踏襲であることは特に言を俟たない。 なお、引戸を外し室同士をフルオープンとする際の建具の収納場所として玄関脇に配した納戸が想定されている※6
これとは別に、間仕切壁による室同士の完全な分割も可能とした。

建具の開閉による可変空間の実現*

二階も、収納や壁配置の選択によってコの字構成のマスごとの分割や一体化を可能とした※7

この可変システムに対し、当該モデルのカタログでは、スペースの分割方法及びキッチンの配置の組合せによる幾つかのプランを提示。 多様な住まい方が提示された。 更に「陣取り合戦シート」なる書式を添付。 そこには家族個々人の住まい方についての考え方を記述する欄と、更に上下階合わせて9マスのフリースペースを家族の誰がどのようにシェアするのかを打合せるためのマトリクスが用意された。 このシートを用い、あるいはカタログ記載のモデルプランも参照しながら家族で話し合い、フリースペースの間取りを決める。 そのプロセスこそが、モデル名称の“家族新話”の意図するところでもあるのだろう。 カタログの別のページには、そのことを示すように以下の記述がある。

この家には、「ここは、私が、こういうふうに使いたい」と意見を出し合いながら、スペースを分け合うプロセスがあります。 早い話が、陣取り合戦が出来る家、ということ。 それは、とりもなおさず、家族が向かい合ってお互いを再発見し、理解して、尊重していくプロセスとなることでしょう。 ミサワホームのDEBUT家族新話は、家族の間に新しい話し合いをもたらす住まいです。
任意のユニバーサルな空間をフリースペースとして単純に提示するのではなく、そこに整形格子を規定して各マスのシェアリング(=陣取り合戦)の在り方を検討する場として組み立てる。 「ライフ・スペース・シェアリング」と名付けたその組み立てに家族が対等且つ積極的に関与する契機をも仕組みとして取り込んで商品化する。
その流れが、冒頭に述べた「規格の中の自由」との異相化を指向する。
S型NEWは、同社が1976年10月に発表したミサワホームO型以降、約十年に亘って商品体系を拡張し続けた“企画住宅”の一モデルであった。 大量供給を念頭においた規格プランを前提とし、そこに先進の住まい方提案と居住性能に纏わる技術を多々組み込むことで自由設計以上に優れた住み心地を提供する。 昭和50年代は、生産性と商品性の両立を標榜した企画住宅を巡るその様な思想が有効性と先導性を持ち、市場を席巻した。 そんな時代と思想の蜜月が、量から質、そして味わいへと価値観が変容する時の流れの中で幕を閉じたのちの企画住宅の在り方。 DEBUT家族新話は、その一つの解としてS型NEWを再編成し改めて提示された商品企画と位置付けられよう。
当該モデルを通じ、住むことに纏わる「家族の間の新しい話し合い」が個々の事例において如何に展開したのか。 そしてその結果、どのようなプランが創出されたのか。 あるいはモデルの発表から年月を経た今、大なり小なり生じているであろう家族構成の変化に空間の“陣取り”が容易に対処可能なシステムとして機能しているのか。 そんな事々に関心を抱くモデルである。


 
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*引用した図版の出典:ミサワホーム

2022.12.10/記