日本の佇まい
国内の様々な建築について徒然に記したサイトです |
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住宅メーカーの住宅
三種のモアと共に:クボタハウス サンモアルーフのある家 |
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1.三種の内外観を持つモデル | |||
※1:
現在、同社は社名をサンヨーホームズに改めている。 ※2: アメリカの住宅・都市開発省が、自動車並みの生産性を住宅にも付与することを目的に1965年5月に「オペレーション・ブレークスルー」と呼ばれる施策を実施している。 これを参考に、日本でも1970年に旧通産省・旧建設省・日本建築センター共催で「パイロットハウス技術考案協議」が執り行われた。 目的は概ね同じ。 アイデアコンペではなく、 実際に大量供給することを前提とした現実的なコンペとして実施された。 68社から95件の案が提出され、戸建住宅7件、共同住宅10件が入選。 入選作はモデルハウスの試施工も行い、その妥当性を検証した後に分譲された。 ※3: 和風タイプは、菅家克子がデザイン監修を行っている。 他2モデルとの関わりは不明。 |
クボタハウス※1は、久保田鉄工(現、クボタ)の子会社として1969年2月に設立。
それまで八幡製鉄所が手掛けていた鉄骨系プレハブ住宅「エコン住宅」の販売会社であるエコンハウジングを系列に収め事業を始めた。
このモデルは他に和風タイプ※3と洋風寄棟タイプが用意されていた。 これら三タイプの内外観デザインに取り立てて共通性は無い。 但し、モデル名称が企図する二階屋根面へのトップライトの設置と、その直下の一,二階界床部分を吹抜けとする設計ルールの導入が共通項となっている。 この機構に拠り、北側諸室にも豊かな採光を可能とすることを商品のセールスポイントに据えていた。 |
2.切妻タイプの概要 | ||||||
2-1:外観 | ||||||
切妻タイプは、玄関廻りを雁行させた平面形状が素直に顕れた動的なボリュームが特徴の外観を成す。
妻壁はいずれも軒の出を水切り程度に抑えるかわりに、雨樋や手摺のトップレールを約三尺程度張り出すことで水平ラインの強調。 外観全体にシャープな印象を付与させた。 対して南面は、二階に全てバルコニーを設けると共に軒の出幅も大きくとることで陰影に富んだ彫深い表情を作り出している。 |
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2-2:採光の工夫 | ||||||
屋内は、凸型の平面形態を活かして可能な限り居室を南面させている。
例えば、一階の南面リビングに連続する北側のダイニングルームも、この凸型平面形態によって南面開口の設置を可能としている。
また、二階の北側に配置されている主寝室も、南側に接続する書斎を介して南側からの採光を確保。
更には、非居室である二階サニタリー部分にも南面採光を取り入れている。
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※:
採光に関する補足: 一階和室にも採光に関する特徴が見受けられる。 床の間の向かって左側の南面する袖壁部分にスリット状の地窓を設置。 また向かって右手の床脇にも地窓を設け、床の間廻りに自然採光を伴うきめ細かな意匠性を与えている。 |
一階平面図* |
二階平面図* |
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また、南面採光とは別に、二階ホール直上の屋根面にトップライトを設置。
当該ホールへの自然採光を確保すると共に、その床に設けたスリット状の吹抜けを介して一階の対面キッチンカウンター前面部分にも自然光をもたらしている。
これが、当該モデルの名称“サンモアルーフ”が示す断面構成の特徴だ。 |
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2-3:アメニティ性を高めたサニタリー | ||||||
二階に設けられたサニタリースペースは、他の2モデルには見受けられぬ切妻タイプのみの最大の特徴だ。
南側バルコニーに向かって大きく穿たれた開口に面して「リフレッシュルーム」と名付けた広々とした洗面室が設けられている。 その洗面室とガラス壁で仕切られた浴室にも、南面からの採光がもたらされる。 洗面化粧台正面の壁の一部には階段の吹抜けに向かって窓が設置され、南面のみならず北側にも採光と通風の経路を確保。 そこに実現された空間は、未だ居室の数と広さの確保を優先し、そのしわ寄せを受けて機能の確保のみに視点が置かれていたサニタリー廻りに高いアメニティ性を付与した先駆例と言って良いのではないか。 |
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2-4:収納空間の配慮 | ||||||
物入れに関するきめ細やかな配慮もこのモデルの特徴として挙げられる。
ユニット収納を用いて間仕切ることで将来の家族変化に応じたプランの可変性を持たせた二階の二室の子供部屋。 腰掛けや飾り棚としての機能も付与した玄関脇の下足入れ。 その玄関正面に設けられた三列並ぶ物入れは、個々に大きさを変えることで様々な収納物の収容に対応出来るように配慮しつつ、隣接するトイレの扉も含めて四枚並ぶ建具の意匠を統一し、玄関前の設えを整えている。 |
3.三つのモア | |||
※:
文中の画像の説明: 対面キッチン前面の空間からリビングルーム方面を観た内観。 手前に構造柱が配置されているが、それをデザインウォールと見立てて腰高の造り付け家具と組み合わせることで空間の中に唐突間無く馴染ませている。 玄関脇の下足入れ部分に露出する柱も同様の措置が採られ、飾り柱として玄関廻りのしつらえの一部として機能させている。 |
同モデルに見受けられる工夫は上記のみではない。
前述の通り、“サンモアルーフ”というモデル名称は、屋根に設けたトップライトにより屋内諸室に貪欲に太陽光を取り入れようという設計意図を反映させた造語だ。
しかし広告には更に、サンモアに掛けて“三つのモア”を提唱していた。 しかしここでは別の三つのモアも掲げておきたい。 つまり、前述の“全室南面採光のこだわりと工夫”“サニタリー部分の充実”“収納の決め細やかな配慮”だ。 |
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*引用した図版の出典:クボタハウス
2017.09.23/記 |