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住宅メーカーの住宅
用途拡張自由空間:ミサワホーム・ドメイン
1.概要

1983年10月7日発売。
初期広告の外観写真は、緑量豊かな敷地をロケーションとする。 楠の高木に阻まれ、建物全景の視認性はあまり良くない。 広告として適切か、と一瞬戸惑う。


DO-C-61タイプ外観*

庭には、木々の合間にテーブルと椅子を幾つも配置。 よくみると、建物一階部分にはピロティが広く設けられ、同様にテーブルや椅子が設えられている。 それぞれの席では、家族や気の合う仲間と思しき人々が思い思いに寛ぐ。 手前中央の席では、フォーマルな服装に身を包んだ品の良い初老の夫婦が、着席している人たちと和やかに談笑している。
夫婦はこの家の持ち主。 その一階及び庭でカフェを営み大いに賑わう様子がそこに演出された。 この演出を見て、写真の撮影意図や掲載理由が了解される。 即ち在宅起業による収入確保を念頭に、そのためのフリースペースを標準設定した「収入型住宅」というアピールだ。 例えば、定年退職を迎えた世代がこのフリースペースを活用して店舗を経営。 充実した第二の人生を大いに満喫するライフスタイルを獲得する。 外観よりも、そんな状況の演出がアピールポイントとして写真に企図されたのであろう。

2.プラン
※1

フリースペースの活用事例*
ここでは、ブティックの店舗としての使用例が提示されている。 勿論活用形態は店舗以外にも様々あり得る。 筆者が観た事例の中には、学習塾の用途に供したものもあった。
更には、在宅収入のための用途のみならず、例えば親世帯の住居スぺースにあてて三世帯居住に対応する選択肢も提示されていた。

基本骨格は、8帖を一マスとした二行三列の整形グリッドに基づく。
一階のグリッドの中で、菱形のパターンが描かれた左下二マス分の箇所が、当該モデルの特徴である半屋外のフリースペース。 そこに隣接して右手縦二マスに屋内のフリースペース。 双方合わせて、在宅収入の拠点と位置付けている※1


DO-C-61タイプ平面図*

二階は、同様のグリッドに則りつつ北側中央に配置された階段を起点に諸室を構造的にも動線的にも合理的にそつなく配置。 更にその上に小屋裏三階が、下階のグリッドの縦方向のラインに従いながら左右対称形に積層。 ここでも北側中央配置の階段が各居室への動線を合理的に処理している。

一階にフリースペースを設置しながら居住用途に供する諸室のスペースも確保するため、小屋裏三階建ての構造形式が採用された。 この構造を用いるのは、同社では当該モデルが初めて。 これは、前年のツーバイフォー工法における小屋裏三階建て構造の告示化と無関係では無かろう。 あるいは、同工法の告示化に対抗した小屋裏三階モデルの商品化に伴い、それによって同じ建築面積でも大幅に増える容積を活用し収入型住宅に資するフリースペースを組み込んだところに当該モデルの面白さがあった。

3.モデルの固有性及び位置づけ
※2
同社が同時期に立ち上げた自由設計の新ブランド「我が間ま住宅」には、「一居解決。」とのキャッチコピーもあった。

※3
A,B,Cタイプは、それぞれ面積を増減させた数種のプランと東西反転の組み合わせ。 Dタイプは1種のプランについて、東西反転のバリエーションが設定された。
A,Bタイプは、Cタイプの小屋裏三階を取りやめたもの。 替わりにロフトを設けたのがBタイプ。 それも略したのがAタイプ。 Dタイプは、Cタイプの1,2階をワンフロアに集約し、その上層に小屋裏フロアを積層させたものになる。

当該モデルの広告に載せられたキャッチコピーは、初期のものは「一家両得。」。 それが暫くすると、「一居六得。」に変わった。 言わずもがなではあるが、双方ともに「一挙両得」をもじったものであろう※2
前者は、豊かな居住スペースと在宅収入を可能とするフリースペースの併設を端的に謳ったもの。 後者では、「収入」に「老後」「節税」「生きがい」「教育」「持家」を加えた六つのキーワードを並べ、当該モデルの優位性をアピールしている。

「両得」若しくは「六得」を獲得する手段としてのフリースペースの設置を共通条件に、当該モデルは4系統のプランバリエーションが設定された。 列記すると以下の通り※3

Aタイプ:総二階建・小屋裏収納無し
Bタイプ:総二階建・小屋裏収納有り
Cタイプ:小屋裏三階建
Dタイプ:小屋裏二階建

上記1.及び2.に引用した内外観は、小屋裏三階建のCタイプ。 一方、総二階建のA,B両タイプの外観として、当時の資料には左下の画像が掲載された。 Cタイプの外観と比較すると、単なるボリュームの違いを超えてイメージが著しく異なる。 更にCタイプについても、上記1.に引用したものと同じ内観構成に異なる外装パーツを纏わせた右下の画像のパターンもあった。


A,Bタイプ外観*

Cタイプ外観の別パターン*

つまり、当該モデルには少なくとも3種類の外観が存在した。 それは、上記1.にて指摘した通り、外観は当該モデルの固有性の表す主要素と位置づけられていなかったことを示し得る。 設置されるフリースペースに、その役割が担わされた。

当該モデルの資料には、プランバリエーションについて更に以下の記述がある。

加えていままでの企画住宅OIII型、AIII型、G型のフリースペース付きのプラン各々3タイプから選べます。

該当プランは未見だが、単純にはいずれの間取りにおいても共通する一階玄関脇に配置される和室をフリースペースに置換したものと推定されようか。
同時期に発表されていた他の企画モデルにも居住目的とは別のフリースペースを組み込む展開は、「ドメイン」のアイデンティティを曖昧にする。 どんな形態であれ、そこにフリースペースに該当する空間を挿入する、あるいは既設の部屋を転用すれば「ドメイン」になる訳で、従って固有の内外観意匠をモデル化するそもそもの必要性が無くなってしまう。 だとするならば、1983年発売のこのモデルは、あくまでも収入型住宅の概念を広く提唱するきっかけとしての雛形との解釈もあり得る。 強い固有性を内外観に纏い商品性に資していたそれまでの同社の企画モデルとは、方向性が大きく異なる。



4.収入型住宅のその後
※4
書籍名:『ファミリーゼイション−いま、われら「住まい」を問う。』
1982年11月1日発刊。 ファミリーゼイションという概念を巡る各界有識者14名による座談会の記録とその中の数名によるエッセイで構成。

当該モデルの発表に並行し、同社総合研究所では書籍の出版活動を行っている。 例えば、「一居六得の話 : domain…奥さまの在宅勤務実例集」と題名が付けられた書籍。 あるいは季刊誌「ザ・ドメイン」。 在宅勤務を積極展開する人を「ドメイニスト」と呼び習わし、ドメイニスト達をターゲットにした情報誌として創刊された。
収入型住宅の活用という新たなライフスタイルの提案を企画住宅の商品化を通して行うのみではなく、それを補完すべく出版活動による啓発を積極的に行う。 同社のこの姿勢は、例えば二年前に発表したM型2リビングにおいても実施された。 余暇時代の到来を想定した「ファミリーゼイション」という新たな暮らしの在り方を提唱した当該モデルの発表にあたり、その概念をタイトルに掲げた書籍※4を刊行している。

1992年10月に同社が発表したDEBUTE自由空間3は、ドメインの形式を踏襲したものと見立てられそうだ。 内外観にCタイプの骨格をやや変容させながら組み込み、一階の殆どをピロティ化。 そのピロティ空間について、当時の販売資料には

なんでもかなえる、自由空間。
ふつうの二階建てが、がらんどうの上に乗っていると、お考え下さい。

と謳っている。 そしてそのがらんどうの自由空間について、インナーガレージやアウトドアリビング、そして三世帯居住用の対応スペース等、在宅起業用スペースに留まらぬ様々な活用方法を提案。 ドメインの特徴としていたフリースペースの利活用に係る用途が豊かに拡張された。


DEBUTE自由空間3外観*

同左ピロティ部分*

昨今、リモートワークの進展が著しい。 この場合、例えば家の中にドメインのフリースペースの様に住宅用途と切り離された空間が備わっていると良さそうだ。 気持ちを切り替えて執務に集中する環境の容易な獲得が期待できる。
発売から長い年月を経て、ドメインが必要とされる時代が訪れようとしているのかもしれない。



 
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*引用した図版の出典:ミサワホーム

2024.09.21/記(雑記帳より一部転載し加筆・調整)