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住宅メーカーの住宅
木質架構の可能性:三井木材工業 三井Uハウス
1.U型構造体
※1
図1:構造概念図*

三井木材工業が「三井Uハウス」を発表したのは1962年。 アルファベットのUの字型に成形した集成材を用いた主要構造体を特徴とした。

古来より国内では、複雑な仕口を用いて現場で各種構造部材を緊結する木造軸組みの架構手法が連綿と継承・発展。 芸術的な域にまで昇華されてきた。
類い稀なるその技術を一旦リセット。 左に引用した概念図※1に示される新たな架構が編み出された。 即ち、柱梁を一体化して冒頭の単純形態に置換し門型フレーム化。 工場であらかじめ生産したその構造部材を現場に搬送して基礎の上に張間方向に据え置き、必要なスパン数を桁方向に並置。 横架材や補助柱でフレームどうしを繋ぎ、全体の架構を成す。

U型フレームには当時最先端のエンジニアリングウッドであった集成材が用いられた。 集成材の採用理由や目的は以下の通りとなろうか。

1.
曲線を伴うフレームの成型を容易に行う
2.
構造体としての品質を一定に保つ
3.
工場での大量生産を可能とする
現場での構造体の施工は、工場生産された標準フレームの据え付けとフレームどうしの緊結が主だった作業に集約される。 構造部材の工業化と現場施工の合理化。 そこには、プレファブリケーションを理想的且つ独創的に展開しようとする姿勢が立ち顕れている。


2.外観
U型フレームは、上記1.に引用した概念図の通り、曲線部分を北側に、開放された側を南に向ける配置が基本。 その形式により、南面は開口を広々と設けるプランが可能となる。 南側の外観(画像1)を観ると、架構の特徴を生かして開口部をたっぷりと確保した立面構成が確認できる。
屋根は、排水勾配を最小限確保した程度のほぼフラットな形状。 架構を活用して南面の軒を深く張り出し、その軒下にU型フレームの上端先端が片持ち梁として露出。 陰翳の中に一定のリズムを刻み、意匠の要素をなす。
画像1:南側外観(U20型)*
画像2:南面中央開口廻り*

但し、独特な構造フレームそのものは、外観構成要素として直接的に用いられてはいない。 例えば、U型フレームの並置によって北側に曲線を伴う架構体が連続する様態を外観意匠に活かす選択も有り得た。 南側も、架構の制約が比較的少ないのだから、屋内の諸室配置条件や外観意匠の構成方針に応じた動的な外部建具のレイアウトも可能であった。 しかしここでは開口の配置を含め全景を手堅く構成。 端正な安定感が追求され、架構の特徴は外観からは視認し得ぬ。

しかし大開口から屋内の様子を窺うと、U型フレームを活かした意匠が垣間見えてくる(画像2)。



3.内観
※2
下記4.に引用した平面図では、北側居室の妻壁からやや室内側に入った箇所に袖壁のような表記がある。 これはU字型構造体の曲線部分と思われる。
訪問者になったつもりで、屋内各箇所の画像を巡ってみる。
画像3:玄関*

玄関に入ると、左手にU型フレームが現しの状態で架構されている(画像3)。
階高分の曲線を伴うUの字を横に寝かせた巨大な木のフレームに、来訪者は圧倒されることとなろう。 家を支えるための要となる構造体を玄関ホールに鎮座させるその構成は、かつての古民家において土間の中央に屹立した大黒柱の象徴性や精神性を姿かたちを変えて新進の住宅の中に組み入れたかの如くだ。
玄関を来訪者に対する家の顔と位置付けるのであれば、壁面から離隔をとってその構造体を露出配置して住まいの特徴を一気に視認させる仕掛けは、設えとしての必然性を十分に持つ。

玄関廻りの意外な構成にいきなり驚かされた来訪者は、リビングルームに通されて一旦安堵を得る。 そこには柱梁を整形に力強く組んだ構造体が安定感のある空間を醸す(画像4)。 そして南面に大きく開放された窓を通じ光と風が流れ、更に外部に広がる庭とのフラットな連携を堪能できよう。
ところが、一息ついたその視線を北側へと向けた途端、ダイニングルーム内に唐突に玄関ホールと同じ構造体が露わとなっている状況を目撃することとなる(画像5)。

画像4:リビング*
画像5:ダイニング*
更に北側に面する個室に足を踏み入れると、そこにも同様の構造体が確認される※2。 これらを通し、この家が尋常ならざる構造形式によって成り立っていることに理解が及ぶ。
見慣れている筈の木材が、今までの常識ではあり得ぬ巨大な曲線を伴って家の構造を担うという見慣れぬ状況。 しかし暫く佇むうちに、その骨太の力強いラディカルな構造体が建物の安定感や安心感、更には楽しさとして捉えられるようになってくるのではないか。


4.木質架構の展開性
※3
画像6:U15型外観事例*
南面軒下の陰翳に浮かぶ片持ち梁の並びから、U型フレーム3スパンによる架構形式が読み取れる。

※4
引用した画像1とそれ以外の内外観画像を照合すると、別の事例を撮影したものであることが判る。 あるいは、画像1のモデルと図2として引用した平面図は同一のものと思われるが、他の内外観画像は当該平面図と一致をみない。
即ち、販売資料に用いられた図版は、複数の事例が用いられていた。
下に引用した外観画像は、U20型の別の事例。 構成要素は画像1と共通するが、開口部のレイアウトが異なる。 画像2〜5は、この事例の内観と思われる。
画像7:U20型他事例*

1964年時点の広告を確認すると、張間方向の長さは三間に限定。 そして平屋建てのみとなっている。 従って要求される床面積は間口調整、即ちU型フレームによって規定される桁方向のスパン数増減で対応せざるを得ぬ。 これは、この構造形式がもたらす制約だ。
広告には、基本プランとしてU15型※3とU20型の二種類が提示されている。 それぞれ床面積が15坪と19坪。 前者は、U型フレームを四列(つまり3スパン)、後者は五列並べて架構を構成。 1スパンの幅寸法はいすれも一間半でモジュール化され、それぞれの架構体の中で玄関の位置や諸室の配置について非構造壁による間仕切り位置を変えて各々6種の基本バリエーションを設定していた※4。 プラン事例を観ると、U型フレームは全てのスパンにおいて現し部材として扱われている訳では無い。 意匠的な効果を狙う箇所では現しとし、それが求められない箇所においては間仕切り壁と合致させてその懐内に納める措置が取られた。
当該モデルの広告のキャッチコピーに「住まいのプレタポルテ」と謳ったものがある。 建物規模や架構形式が規格化されていることを表明するために、既製服を意味するフランス語が用いられたのであろう。


図2:U20型平面プラン事例*

この時期、同社の住宅開発には木質構造の第一人者である横浜国立大学教授の飯塚五郎蔵が関わっていた。 三井Uハウスに用いられたユニークな架構形式も、氏の構想および研究開発に基づいている。 結果、集成材の特性を活かしつつ、生産性と現場施工の省力化、そして南側立面の開放性確保という商品的な優位性を兼ね備えた独創的なモデルが実現した。
但し、この形式の適用は狭小住宅において有効であり、ために上記のプラン構成に留まった。 更に、当該モデル以降の同社における二階建てや面積拡張プラン等の商品展開は、例えば別ページにて述べている「Hiハウス」のように、集成材を用いながらも整形な軸組工法が採用されている。 それらを踏まえるならば、三井Uハウスは狭小住宅の供給を工業化の観点と集成材の可能性追求の視点から具現化した特殊解と位置づけられよう。

しかしながら昨今、低炭素化社会の実現に向けた建設分野における取り組みの一環として、建築物の木質化への展開が多岐にわたり検証されている。 当該モデルのような独創性に富む架構形式が脚光を浴び、そして普遍性を持つ手法として広く進展する可能性は十分あり得よう。
時代が、三井Uハウスの再来を求めているのか。


 
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*:引用した図版の出典:三井木材工業

2021.10.16/記