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住宅メーカーの住宅
独創的な多層構成:ミサワホーム・ハイリビング(F158)
1.概要
※1
北海道、札幌市、北海道新聞社共催で開設された大型住宅展示場。 札幌市東区北7条東1丁目にあった。
ミサワホームは二棟のモデルハウスを出展。 そのうちの一棟が当該モデル。 もう一棟は緩勾配の切妻屋根を載せたオーソドックスなもの。 性格の異なる二棟の並置は、後述の多様な商品企画能力のアピールでもあったのかもしれぬ。
かつて東京都中央区晴海に在った東京国際見本市会場にて1970年10月に開催された第一回東京国際グッドリビングショー(以下、GLショー)に出展されたモデルである。 広大な見本市会場の北西の一画に設けられた「住宅特設展示場」と名付けられたエリアのJ-7区画に、当該モデルが建てられた。
かつて札幌市東区に設営された総合住宅展示場「北海道マイホームセンター※1」にも、そのオープン当初このモデルが出展された。 同展示場の開設は1973年8月11日。 即ち、GLショーでの発表から三年後になる。 こんにちにおける時代のスピード感との違いというものもあろう。 しかし、三年前と同じモデルが別の住宅展示場にも建てられたということは、好評を博していたということになるのではないか。
GLショー出展時の名称は、「ハイリビング」。 北海道マイホームセンターの展示モデル名は「F158」となっている。 従って、表題には両方の名称を併記した。
2.外観
写真1補足:
当該モデルハウスの左隣に、積水化学工業が出展したモデルハウスの一部分も写っていることが確認出来る。 J-8区画に建てられたこのモデルハウスは、後にセキスイハイムM1という商品名称で販売される国内初のユニット工法を用いた商品化住宅のプロトタイプとして建てられたものだ。

※2

写真3*
写真1の裏手側の外観。

高さ及び平面位置をずらした三つのボリュームによって構成されている。 各ボリュームは、水勾配程度のほぼフラットな緩勾配屋根と鉛直に近い急勾配屋根(もしくは斜壁と捉えても良いかも知れぬ)を組み合わせた変形屋根を持つ。 更に、その屋根の破風板と床スラブの鼻先の見付け幅を統一し、且つ同面同色で連続させることによってボリュームの外周を三方から包み込んでいる。


写真1:外観*

線形要素によって三方を囲われた内側部分の立面は、開口部及びその上部垂れ壁部分を両脇の方立て壁に対し面落ちさせた納まりとし、更にそれぞれに異なるテクスチュアを与えることで表情を与えている。
また、バルコニーに取り付けられている手摺は、水平ラインを強調したデザイン。 上端に幅広の笠木を一本通し、その下部に細い横桟を並べるディテールは、当時の同社の外観によく見受けられる形態だ。 しかし、他の事例が、濃い茶系の色彩で外観を引き締める要素として配置されるのに対し、ここでは白一色にすることで、全景に馴染ませている。

また、写真2※2及び後述の平面図からも判るように、裏側の立面も同質のデザインによって構成されている。 どの方角から観ても美しいデザイン処理。 いわゆる「裏側」の無い外観構成は、昭和50年代に同社は発表していたGOMASシリーズと名付けられた企画住宅群の特徴でもあったが、その拘りを既にこのモデルにおいても見い出すことが出来る。

3.内観

外観の形態そのままに、スキップフロアを用いた動的なプランによって構成。 その特徴が端的に顕れているのが、一階レベルから少し持ち上げられたリビングルームやダイニングキッチンに至る階段部分を捉えた写真3だ。 日常生活での昇降の頻度が多いことを考慮した彫刻的な階段の意匠が面白い。 周囲の床と壁を光沢のある黒の100角タイル張りとすることでマット調の白色で仕上げられた段床を際立たせている。


写真3*
玄関ホール。階段を昇った奥にリビングルームが見える。

写真4*
ダイニングキッチン。奥にリビングルームが連続する。

リビングダイニングキッチンの床レベルを少し高く設定したこの構成が、モデル名称の由来であろう。
プレハブ住宅といえば、まだ画一的な内外観の設えが一般的であった昭和40年代にあって、この造形性は突出している。 あるいは、ユニバーサルデザインの前提のもと段差が禁忌されるこんにちにあっても、それとはトレードオフの関係として十分に通用し得る意匠だ。

4.プラン
※3
結果、二階の立面の一部に一階のボリュームが食い込む納まりが発生していることが、引用した外観写真にて確認出来る。
屋根面の雨水処理や、あるいは降雪地域に建てた場合の冬季の積雪に対して必ずしも好ましい納まりとは言えない。 しかし、二階のフロアレベルを通常よりも下げる形態操作によって三層のボリュームの組み合わせが織り成すプロポーションを調律。 外観デザインを整えることに寄与している。

二階直下に設けたピロティ状の駐車スペースに面して玄関が設けられている。 即ち、玄関ポーチとインナーガレージが兼用となっている。 その玄関扉から屋内に入って内部を眺めたアングルが、写真3となる。 造形性の高い階段は、玄関に入った際の第一印象を決定付ける重要なアイキャッチとしても機能するだろう。 つまり、ミサワホームO型における力桁階段のそれと同じである。

この写真3の右上の隅に、下がり天井が発生している様子が確認出来る。 この下がり天井は、その直上に配置される二階部分のフロアレベルの設定により発生したものだ。 つまり、二階のフロアレベルは、その直下の一階部分の天井高さを抑えた上で設定されていることになる。
二階が配置される箇所の直下に当たる一階部分は、非居室用途が集中している。 即ち、インナーガレージや玄関、水廻り等である。 これら非居室部分は、通常の居室と同じ天井高を必ずしも確保する必要は無い。 そのため、天井高さを抑えて二階のフロアレベルを通常よりも低くした※3。 それは、当該モデルの構成がスキップフロアであるために日常生活においてその機会が増える階段の昇降頻度に対する動線計画上の配慮なのかもしれない。 二階に至る経路の高低差が抑えられることで、その負担が軽減されることになる。


平面図*
規模:1F;93.73平米/2F;33.12平米

この様な配慮を伴ったスキップフロア形式によって生成された各層は、それぞれに異なる用途が与えられている。
すなわち、一階は、接客の用途に供するのであろう和室。 そこから半層上がったフロアに設けられたリビングルームとダイニングキッチンは、家族の公室としての用途。 更にそこから半層昇った二階部分は、プライベートの用途として個室を配置している。
一階の和室はサニタリーゾーンと同レベルであることから、例えば高齢者の居室として使用する想定も可能であろう。

5.造形性と生産性
※4
当該モデルはGLショー閉会後も継続してその場に展示。 その後同見本市会場で開催されたモーターショーの会期末である同年12月20日まで公開された。

※5

写真6*
第一回GLショーにハイリビングと共に出展されたコアニュータイプの外観。 各立面に設けられた出窓状のユニットが、ホームメカ。

第一回のGLショーにおいて、同社はこのハイリビング※4とは別に、見本市会場の屋内展示施設に設定されたテーマゾーンにて「ミサワホーム・コアニュータイプ」と名付けられたモデルを出展している。 前年に同社が発表したローコストモデルとして別項でも紹介している「ホームコア」をベースに、そこに当時並行して開発を進めていた「ホームメカ」と名付けられたユニットを付加したプロトタイプモデルだ。 「ホームメカ」は、居住に必要な機能をパッケージ化したユニットを外付けするというもの。 その外付けデバイスを装着した当該モデルは未来的な先進のイメージが付与されていた※5。 それは、造形性を重視した「ハイリビング」とは明らかに一線を画すモデルであった。

あるいは、同じく別項にて言及している「ミサワホーム・コア350」は、この「ハイリビング」とほぼ同時期に開発されている。
前述の通り、「ハイリビング」が出展された第一回GLショーの開催が1970年の10月。 コア350の発表の場となったパイロットハウス技術考案協議の実施が同年の4月だ。
しかし、両者の方向性は全く異なる。
コア350は、生産性とコストパフォーマンスを重視したモデルである。 実際、コンペティション当選モデルに対して2年後に実施された試行建設では、基礎工事完了状態から約二時間での上棟を達成。 関係者を驚かせたという。

造形性と生産性という相異なる方向性に対し、その捉え方を全く異にするモデルの同時並行開発及び発表。 それは勿論、参加したそれぞれのイベントの趣旨に逐一適切に対応させた結果だ。 しかし、その様な適応性の高い生産体制や技術開発能力、そして商品企画力は、漸く揺籃期から一歩踏み出した状況下にあった当時の住宅産業界の中にあっては特筆すべきことであろう。



*引用した図版の出典:ミサワホーム

2009.07.04/記
2009.09.05/概要等、一部追記,構成変更
2009.11.07/「5.造形性と生産性」の項を追記
2019.11.09/文章加筆・調整,画像追加