日本の佇まい
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建築の側面
東京都物件15:都市の片隅の瀑布
規模:地上11階

用途:集合住宅


この立面を初めて目にした際、即座に「滝」のイメージが浮かんだ。
淡いアイボリー色で仕上げられた押し出し成型セメント版による巨大な壁の中にあってなぜか無塗装のままとされた中央竪方向に伸びる素地面が、まるで高所より一直線に落下する瀑布のよう。 下部にランダムに散在する矩形の部分塗装は、水飛沫。 そして上層にやや疎に配された同じそれは、さしずめ水煙。

この様態が生成されているのは、エレベーターシャフトの壁面。
恐らく元々は全てが無塗装か、あるいは何らかの事情で中央のみ無塗装のままとされたのであろう。 そこに、経年において必要最小限の部分補修が幾度か繰り返し施されることによって今の状況が作り出された。
単なる一枚の無機的な壁が、建物供用後に生じたその時々の意匠への意思不在の行為の介在を受けながらいつしか竣工時とは異なる表情を帯びる。 それは豪放な水の動態を想起させながら、しかしそこに水は一切存しない。 いわば枯山水の如く、都市の片隅にひっそりと深山幽谷の見立てが持ち込まれた。



2023.03.23/記