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建築の側面
関東物件05:原寸大3D矩計図
規模:地上5階

用途:集合住宅

写真1
※1
浴室兼洗面所と推定される箇所の詳細。

下階壁面仕上げは淡いピンク色の100角タイル張り。 対して上階は淡い青の吹付けタイル。
界床見上げ面左隅に、上階からの排水横引き管らしきZ字型に屈曲した鋼管。 また、その界床上面には水勾配が確認出来る。

1960年代半ばに入居が始まった大規模な公営賃貸集合住宅団地の中心部に位置する一つの住棟。 その桁行方向の約半分程度が除却され、張間方向の断面がきれいに露出。 すなわち、原寸大のリアルな矩計図がそこに生じている。

その生成事由は、周辺一帯の再開発に伴う土地利用の変更によって既存住棟の一部を除却する必要が生じたことによる。 除却によって確保された敷地を取り込んだ隣地に、地域の核となる真新しい商業施設が建てられ既に営業中。 そのエントランス部分に対峙する形で、精緻に切り出されたこの建物断面が屹立する。
しかしその様態を拝めるのも期間限定。 既に全ての住人が退去した残置部分もいずれ除却。 跡地には商業施設と共にセンター地区が整備される計画となっている。

そんな地域全体の更新のあわいにたまさかに顕れたその断面は、インフィル部材がほぼ取り払われ、構造体のみとなった状況。 しかしそこからは、今現在の一般的な片廊下型集合住宅の納まりとの違いを確認することが可能だ。
例えば向かってやや左手の、フロアによって壁面の色が異なる箇所。 浴室兼洗面所と推定される※1
現在はほぼユニットバスの設置による対応であるが、当時は湿式が基本。 従って床面に大きく排水勾配が取られている。 その表面に防水層を施工し、更にその上に玉石モザイクタイル張り等の仕上げを施すのが、当時の一般的な仕様。 壁面については、入居者が入れ替わる際の修繕工事の折りに改められたために色と素材の違いがフロアによって生じることとなったのであろう。 その色分けの様態が、文字通り断面に彩りを添える。
あるいは、排水ルートが界床スラブを貫通し下階の天井懐内を横引きする形式であったことも、一部痕跡から窺える。 上下住戸間の音環境対策の観点から、今現在ではあり得ぬ設定だ。

そんな事々を確認する上で、この断面はとても興味深く且つ貴重なサンプルである。 と同時にその切断精度と相まって極めて美しくもある。
例えば地域の記憶を継承する巨大なパブリックアートとして物理的に保全するといった措置がとられても面白いと思うのだが。



2018.05.12/記