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建築の側面
関東物件03:矩計図の立体表現
規模:地上3階

用途:事務所ビル

写真1:妻面見上げ

写真2:
二つの建物の配棟状況。 双方の妻面に、写真1の状況が確認される。 写真1は向かって左側の妻壁を見上げたもの。

江戸期から街道筋に発達した商業地という歴史を持つエリア。 しかしながら、現在幹線道路と化した旧街道沿いには中高層建物が林立。 その合間にかつての景観を辛うじて想起させる古風な商家が僅かに点在する。 そんな都心の旧街道によくありがちな風景の中に、当該側面を有する物件が二棟並んで建つ。

道路の向かい側から二つの建物を眺めると、双方とも類似した外観。 そしてどちらも、桁方向の柱間(スパン)ごとに上階に至る階段が道路に面した一階部分に設けられている。 つまり、一スパンごとに界壁で区画して独立させながら一体の建物として建てられた長屋形式の中層建物なのだろう。
恐らくは昭和半ばあたりに近辺の歴史的建造物が次々と中高層建物に建て替えられる動向に合わせ、隣り合うオーナーどうしで再開発協同組合を設立。 各々が所有する古民家をつぶして敷地を一体化し、各スパンを区分所有する現代的な合同ビルに建て替えたといったところなのではないか。

そんな経緯が推察可能なこの二棟の建物に対しては、対面する妻壁の状況に気づかなければ特に興味を抱くことも無かった。 そこには双方とも床・壁・梁といった建物の構造断面が綺麗に露出している。 本来ならば、そんなことはせずに平滑な壁面で単純に仕上げるところだ。 しかもそれぞれの小口は同一面ではなく、床・壁・梁の要素ごとに段差が付けられている。 それはあたかも、構造パーツごとに分けて立体的に表現された矩計図の如くだ。

果たしてこの側面の生成事由は何か。
例えば、建て替え事業を進めるさなか、ちょうど中央部分に位置する既存建物所有者の計画への参加が遅延。 止む無くその所有者の民家を挟むように二棟に分けて合同ビルを建設。 将来的に残された所有者も分断された二棟を繋ぐように一スパン分の建物を建てて(増築して)一つの棟として完成させる構想だったのか。 それとも逆に、元々一棟であった合同ビルの中央部分のスパンの権利者が何らかの理由で自身の所有分のみを除却。 現在の二棟に別れた状況となったのだろうか。
いずれも、現況の立体的な構造断面表現の生成事由には繋がらぬ。 しかし、長屋建ての建築形式であるがゆえに想定し得る過程ではある。
現在、二棟の間には車路が通され、建物背後に広がる駐車場へのアクセス経路となっている。 そんな状況も絡めて、この側面の生成経緯や背景について様々に想像することが出来そうだ。



2017.02.18/記