日本の佇まい
国内の様々な建築について徒然に記したサイトです
町並み紀行
建築探訪
 
建築外構造物
ニシン漁家建築
北の古民家
住宅メーカーの住宅
間取り逍遥
 
INDEXに戻る
建築の側面
北海道物件13:側面に向けた矜持
規模:5階建て

用途:店舗

※1

接道側立面見上げ
これ以外の当該ページ掲載画像は、向かって左手の建物が除却された状況。


※2

側面見上げ

高松伸が札幌市の中心街に設計した「TATOO」と名付けられた商業建築。
両側を既存建物に挟まれた間口僅か約5mの狭隘な敷地に1989年に完成したその外表は、道路側から視認される大部分が本磨きの平滑な黒御影で覆われている。 その立面中間層に縦横シンメトリカルに硬質な金属のディテールを纏う装飾や開口を配置。 更には異なる曲率で二重に抉った上層部に光の塔が二本並立された※1
TATOOとは、その光塔のガラス面に彫られた花蔦の文様を指すと作者の解説にはある。 通常であれば単純で凡庸なペンシルビルに堕す以外の選択肢を持ち合わせぬ狭隘な都市の隙間に、圧倒的な建築が鋳込まれた。

そんな当該作品に隣接する商業ビルが除却。 それによって今まで拝むことが叶わなかった南面が露呈した。 もちろん、隣地境界ぎりぎりに建て込まれたその立面の殆どに意匠などありはしないし、その配慮が要求される必然も無い。 規則正しく割り付けられた押出成型セメント板が各層無機的に並ぶのみ。

但し一部に正面側上層と同様の金属パネルが廻されている。 その割り付けは、先述の曲面に抉られた外形と押出成型セメント板のモジュールとの整合を図りつつ、氏の同時期の他作品にも見受けられる微細なズレを伴う目地が施されていて興味深い※2。 たとえ隣接建物によって塞がれ視認され得ぬ部位であろうとも、自身の作風は最小限反映させる。 そんな矜持が、隣接建物の除却によって露わになった。
それだけではない。 当該建築の特徴を司る光の塔も、正面以外からの視線の確保が可能となった。

隣接建物の除却によって生じ、そして新たに建物が立ち上がることで隠蔽されてしまう期間限定の様態。 都市は、そんな一瞬の風景もしくは状況が多種堆積しながら、愛でられる機会も稀なままひたすら変容し続ける。



 
INDEXに戻る
2023.09.16/記