日本の佇まい
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建築の側面
北海道物件11:除却性建築半減期
規模:2階建て

用途:集合住宅

写真1:外観
※1

写真2

※2
仮に権利変換等が行われず、賃借人と賃貸人の関係が継続していたとしても似た事情が想定される。
つまり一方の住戸の住人の退去後、後続の賃借希望者が現れない。 対策として賃貸住戸としての魅力付けを高めるためにリフォームを行うのにも限度があるし、その効果を期待出来るだけの投資の対価も見い出せない。 かといって空き室のまま放置するのも無駄である。 できれば全て壊して更地とし他の収益性のある用途に活用したいが一方の住戸はまだ賃借人が入居中。 借地借家法の絡みで退去を促すことも出来ぬ。 そこで、空き部屋となっている一方のみを除却したという事情。
で、写真1でも判る様に、取り敢えず駐車場として貸し出すことで収益を確保することにしたのかもしれない。

恐らく元々は二軒長屋だったのであろう。 急勾配の切妻屋根を道路側に向けた妻入りの建物。 その大屋根と袴腰形式の玄関庇の矢切り部分にモルタル掃き付け仕上げを施し、他は下見板を張り巡らしたやや洋風を意識した外装。 そんな外観の内側に、切妻屋根の棟木に沿って界壁を設けて二つの住戸が左右対称に作られていたのではないか。
それがある時期に向かって右側の住戸が除却。 もう片方の住戸のみ取り残され今現在の外形となったのであろうことは容易に想像が付く。
切断面※1には均質な鋼板が張られ、建築の断面を側面化。 正面の立面とは全く異なる仕上げが施されることによってそれが切断面であることを強調すると共に、やや強引なその減築行為に纏わりつく暴力性を抽象化しているようにも見える。

今現在の姿が半分除却されたものだと仮定して、この様な状況に至ったプロセスを想像してみることはさほど難しくは無い。
例えば、二件長屋が賃貸向けに建てられたものだとしよう。 建設当時の流行であった洋風の外観を纏うことで、賃貸住宅としての商品性を付与。 その甲斐あって両方の住戸の賃借人がすぐに決まった。 以降、経年の中で権利変換が行われそれぞれの住戸の所有権が入居者に移る。 更に月日が経ち、御互いの異なる事情から一方は除却、他方は継続使用が選択された。 そんな可能性は十分に考えられるのではないか。
勿論、他にも様々な事情が想定し得る※2。 しかし、いずれにしても界壁を境にした建物に対する思惑や事情の違いが絡むために切断面の処置は必要最低限のものに留められる。 少なくとも正面の外装仕上げとの関連性に配慮する余裕など望むべくも無い。 残存住戸の居住性を高めるために開口部を設置するといった配慮にも至らぬ。 唯一、奥の方に小窓が穿たれたのみだ。

同様の建物の切断状態は、同じ市内の所々に散見される。 中には一軒家の減築と思わるものもあるが、多くは長屋だ。 そこには、今現在この街に生じている事象が如実に顕然されているのかもしれぬ。



2015.09.11/記