碁盤目状に計画的に敷設された道路が周辺一帯に広がる風景は、北海道内において時折見かける。
	札幌近郊に位置するこの駅前の商店街にも、その形態が見受けられる。
	均質なグリッドによって仕切られたそれぞれの敷地には、かつては似たような体裁・規模の店舗が軒を連ねていたのであろう。
	しかし今は歯抜け状に建物が除却され、更地がまだらに散在する。
	現存する建物も仕舞屋が少なくは無く、営業を行っている店舗はまばら。
	建物が更地を無秩序に浸食する旧来のスプロールとは逆の状況が進行するこの地を訪ねたのは、五月初旬。
	街の規模に比してやや余裕のある幅員の道路がまっすぐ伸びる通り沿いに強い寒風が吹き抜け、まだ春浅しといった風情と相まって何やら侘しさが漂う。
	人通りの少ない閑散とした通り沿いに流れる街頭放送も、どこか空しい。
	そんな、少々くたびれた駅前商店街の一角に、この側面が在る。
	
	
	そこには、かつて外部階段が取り付いていたと思われる痕跡が確認できる。
	右下から左斜め方向に上昇する階段のささら桁。
	二階部分の踊り場の床版と、その直上を階段も含めて覆う庇。
	そしてその双方を繋ぐ袖壁。
	それらの痕跡の線分が、一筆書きでスルリと描かれたように建物側面に顕れている。
	そこに、実態としての化粧胴差や勾配屋根の破風板が寄り添う。
	
	
	これらの線分要素の取り合わせの中に、更に二つの矩形要素が挿入されている。
	一つは、二階踊り場部分に付く痕跡。
	恐らくは二階に設けられていた出入り口の痕跡であろう。
	そしてもう一つが、その痕跡の直下に穿たれた実態としてのアルミ建具。
	分散配置される線分要素の中央に、この矩形要素が縦にレイアウトされることで、全景が引き締められている。
	
	
	痕跡が外部階段であったとして、その除却事由は何であろう。
	かつては一階を店舗、二階を住居とする併用建物で、動線的な職住分離を目的に外部階段を設けていたのだろうか。
	しかし、一階店舗の営業を終えたことをきっかけにその分離の必要も無くなった。
	そのため、防犯の意味も含めて外部階段を取り外した。
	そんな経緯があったのかも知れぬ。
	であるとするならば、街そのものと個々の建物の様態が密接に関連しつつ状況が進行している。
	そんな佇まいの一端を、この側面が指し示しているといえるのかもしれぬ。