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建築探訪:本然山無量院浄久寺本堂

所在地:
愛知県豊田市
喜多町3-1

建築年:
1969年10月

設計:
青島設計室

施工:
竹中工務店


写真1:西側外観
RC造の寺院建築には様々な事例がある。 横山秀哉は、その著「コンクリート造の寺院建築」の中でそれを以下の4種に分類している。  
1.
伝統的な納まりを忠実に再現したもの
2.
それを簡素化したもの
3.
伝統を踏まえRC造ならではの意匠的読み替えを図ったもの
4.
伝統に拠らぬ前衛的なもの

このうち1.は、型枠の造り込みよって如何なる造形も自在なコンクリートの特徴が活かされた事例ということになる。 しかし、それは当該素材の物性の一側面に過ぎない。 木造を前提に長い年月をかけて洗練されてきたディテールを異種素材でそのまま再現することは構造的も意匠的にも必然性を持たぬ。 単なる擬態であり、例えば耐火性以外の建築的価値は見い出しにくい。
2.はディテールが省略される分、プロポーションがより重要になる。 しかし、あまり成功している事例に出会ったことは無い。 簡素化と簡略化は紙一重。
ということで、個人的な興味は、3.ないしは4.の事例が中心。 当該作品は、3.に属することとなろうか。

名鉄三河線豊田市駅の東口駅前広場からさほど離れぬ場所に立地する。 駅からアプローチした際に見えるのが写真1の西側立面。 接地階を屋内駐車場の用途に供し、その屋根スラブを人工地盤として基壇を成す。 外周に欄干を廻した基壇の上に屹立する六本のRC柱の頂部には、組物を思わせるディテール。 そしてその列柱が、大きく張り出した分厚い屋根を支持する堂々とした構成だ。

写真2
写真3

しかし、組物的なディテールは、本来肘木とセットになる斗に該当するパーツが無い。 肘木のみが直交しながら徐々に持ち出しつつ積層し、上裏に二軒を表現した屋根を支える。 更に、本来組物の上に載るのは横架材である筈のところを、ここでは直接地垂木と取り合っている。
伝統様式からの離反もしくは意図的誤謬。 しかしそれが木造では無くRC造ゆえに、あまり違和は生じていない。 むしろ伝統を意識しつつRC造ならではの造形ないしは工法が志向されているという印象。
それは、前掲の書籍の中で著者が述べる

「木割をふまえて、それを応用しあるいは参酌し、創意も加えてまとめることが常道であろう。」

という指摘に沿う。

建物の東面(掲載画像の逆側)に廻ってみると、そちら側が建物の正面であることに気付く。 その構成は西面と同様。
前面広場の南東角から東側に延びる路地状の参道を介して幹線道路に接続する。 その導入部分に位置する伝統に則った山門と当該本堂の対比が、作品の魅力を補強している。

2018.02.24/記