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建築探訪
チサンイン名古屋
所在地:
愛知県名古屋市
中村区則武1-12-8

建築年:
1973年1月

写真1:南側外観


※1

1987年頃の当ホテルのリーフレット*1に載る外観写真。
当時、一階の一部と基準階の外装は白一色。 そして基壇部と塔屋を濃灰とし、全景を引き締めていた。 下記※2に引用した1982年撮影の航空画像においても、基準階について同様の外壁色が確認できる。
因みに、当時の同ホテルの名称は「チサンホテル名古屋」。

円形建物に見えるが、正確には二十角形によって円を近似した平面構成。 しかし、ほぼ円筒形と見て差し支え無い。
その外表に規則正しく配列されたオーバーハング部分は、設備機器等をコンパクトに収容したカプセルを想起させる。 外表に穿たれた小窓と、そして上下フロアどうしの縁を切って矩形のボリュームとしてパーツ化した意匠が、その様な印象を与える。 即ち、建物本体の構造に影響を及ぼすことなく更新等に係る着脱を個別に容易に行えるよう企図された装置。
実際にはその様な機構は有していない。 しかし、他の外壁面と色分けを施すことでその存在感を強調※1。 円筒形のボリュームに特徴的な表情を醸す外観デザインの要としている。

外観に呼応したのか、エントランスアプローチに屹立する柱も全て丸みをもたせ、エントランスホール内も円を基調に構成されている。 更に、屋内に設置されている二基の階段も螺旋だし、エレベーターホールも円形の壁に囲まれる等、円に拘った形態操作を徹底。
但し、円を意識した外壁ラインを形成する二十角形は、正形ではない。 南東方向の三スパンのみ雁行及び間口の拡張を行い(写真3)、やや広めの客室を設けている。 その方向はちょうど名古屋駅方面への視界が開けており、眺望が良いことを鑑みた調整であろう。

写真2:東側外観
写真3:立面見上げ
写真4:遠景
※2

航空画像*2
鋭角に交差する道路に面する角地を立地する状況が確認できる。 道路を右下の方向に進むと名古屋駅に至る。

※3
上記航空画像にて、建物中央に光庭として円筒形のボイドが設けられている状況が確認出来る。

円筒形の建物ボリュームが採用されたのは、鋭角に交わる道路に面する角地という敷地条件から導き出されたものと考えられる※2。 そして、名古屋駅太閤通口側駅前広場北端に接続する道路沿いに見通せるロケーションにおいて、アイキャッチとしての立ち位置も目論まれたのであろう。 実際、JR名古屋駅の新幹線ホームからの遠望は、写真4の通り。

基準階は、建物中央に円形の光庭を配したドーナツ型平面をなす※3。 そして円環状に設けられた中廊下を挟んで外周側と光庭側に客室が並ぶ。
各室は、建物中心を起点に放射状に配した界壁で区画される。 従って、いずれの室も台形型の平面を持つ。 外周側の客室は、中廊下に面する出入口側の間口が狭く、奥(外壁側)に向かうに従って広がる。 逆に光庭に面した客室は、出入口側が広く、光庭側に向かうに従ってすぼまる形状。
通常のホテルの客室は、出入口の脇に浴室や洗面等のサニタリーユニットを設け、その奥に居室を配置することが一般的。 しかし当ホテルの外周側客室は逆。 先ずベッドスペースがあって、奥(外壁側)に溜りのスペースとサニタリーユニットが配置されている。
このレイアウトは、上述の平面形態に起因する。 外観の特徴であるオーバーハング部分は、このサニタリーユニットが収められた箇所。 つまり、更新に係る着脱が可能なカプセルでは無いものの、その指向のもとデザインされた可能性はあろう。

1950年代、国内では学校や病院等の用途を中心に、動線と諸室配置の効率化を目的に円筒形の建物形態を用いる計画が興隆した。 そして60年代に勃興したメタボリズムにおいて見受けられたカプセルないしはカプセル的な意匠による新陳代謝の機能を建築に組み込もうとする動き。 それらの建築潮流が、当該ホテルのプラン策定にも強く意識されたのかもしれぬ。



 
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引用した図版の出典:
*1 1987年当時のチサンホテル名古屋のリーフレット
*2 航空画像:国土画像情報(カラー空中写真)<国土交通省>

2014.04.26/記
2021.07.24/改訂