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建築探訪
旧目黒自動車交通本社ビル
所在地:
東京都目黒区
中央町1-3-18

南東側外観


※1
用途を鑑みるならば、立面に横連窓を採用する必然性は無い。 東側のスロープと同様、墜落防止措置としての腰壁と躯体開口で構成すれば機能は満たす。
敢えて建具を嵌め込んでガラス張りのカーテンウォールとしたのは、本社機構の建物としての目黒通りからの視線に配慮したものだったのかもしれぬ。 ホテルクラスカの前身であるホテルニュー目黒が前面に建つまでは、目黒通りから視認される立地であり、その意匠によっては交通量の極めて多いこの幹線道路に対するランドマークとなり得ることが意識されたのではないか。
実際、目黒通り側に面する南側以外の立面は、スロープ部分と同様の外装となっている。

東急東横線学芸大学駅から徒歩約10分。 目黒通り沿いに建つホテルクラスカ(Hotel CLASKA)を観に現地に赴いたのは、2003年の開業から暫く経った頃。
既に休業していた築30年余のホテルを改修し、上質のファシリティとデザイン性を付与することで同じ用途の建物として再生させたストック活用の先駆事例。 その内外観は、リノベーションならではの先進性と古風な趣きが同居するとても興味深いものであった。
しかしながら、私の関心はその背後に立地する別の建物へと早々に移る。

クラスカの脇の小路を奥に進むと、壁面を強調した正方形平面の塔状のボリュームが見えて来る。 更に歩を進めると、塔の西側(左手)に型板ガラスを嵌め込んだ床から天井までの引違い段窓を水平方向に連続させた立面も徐々に視界に入ってくる。 この箇所において、横連窓以外に視認される要素は界床や側壁等、極僅か。 加えて一階をピロティにしているところが、いわゆるモダニズム建築的な透明で簡素な雰囲気を醸す。 垂直性が強調されたマッシブなコンクリートの塔と、ガラスを主体に水平要素が積層するボリュームとの対比が、外観にメリハリを与える。
更に、塔の東側にキャンチスラブとなったスロープが各層に積み重なることで、外観に動的な様態がもたらされる。 と同時に、建物用途も示唆される。 よく見れば、横連窓※1のガラスを介して、各層の屋内に自動車が停めてある様子も覗える。 即ち、自走式駐車場。 スロープは、当然のことながら地上から建物の屋上に至る全てのフロアに車で直接乗り入れるための動線。 そして塔状のボリューム部分には階段とエレベーターが収められ、これも垂直動線として機能する。



南西側外観
駐車場棟立面

この駐車場棟の西側に、二階建ての事務所棟※2が矩手に接続する。 その壁面には社名を掲げた看板。 それによって、建物の大部分を駐車場の用途としている理由に合点がいく。 タクシー会社として、本社機構を担う社屋に保有車両を収容し管理保全業務にも供すための措置。
事務所棟一階部分の南側立面は、淡いモスグリーンの三丁掛けタイルを張って基壇を形成。 その上に載る二階は、基壇より少々オーバーハングさせたボリュームに横連窓を穿つことで、駐車場棟のモダニズム的な立面との関連性を持たせると共に、建物へのメインアプローチに面するエントランスとしての構えを与えている。
複数のボリュームが、それぞれの用途や目的に対応した意匠を纏い組み合わさる。 あるいは、用途ごとの機能上の要請に応じてボリュームが適宜分節され、外観に変化を与える。

国土地理院がWEB上に公開している航空画像データを確認すると、登録されている1963年撮影の画像の中に既にこの建物が建っている様子が覗える。 同社は1950年設立なので建設時期はその間ということになるが、経年作用による外観の塩梅も、あるいはその外観の組み立てが織り成す雰囲気も、その年代と合致する。 俯瞰画像にて視認し得る建物の構成は私が訪問した際の組み立てと同じ。 つまり、竣工時の姿を維持して供用され続けてきたことになる。

ホテルクラスカの前身であるホテルニュー目黒は、鋼製パネルとマリオン、そして水平方向に連なるサッシによって構成されるカーテンウォールを外皮のほぼ全面に採用した、これもモダニズムの範疇に属する外観を持つ建物であった。 基壇と高層棟に明確に分節されたボリューム構成と共に、その特徴がクラスカへと巧みに受け継がれ今日に至った。
そしてその背後に建つ、コンクリートとガラスによる同じくモダニズムの様態に属する当該建物。 その並置若しくは対比が、幹線道路沿いのやや弛緩した風景の中に半世紀以上にわたって彩りを添え続けてきた。

※2
事務所棟西面。
その向こう側にセットバックして駐車場棟が接続する。


 
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2021.07.10/記