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建築探訪
恩賜上野動物園象舎
所在地:
東京都台東区

設計者:
東京藝術大学建築学科
施工者:
三つ目建設
東京汽船
建築年:
1968年7月20日

写真1:外観


※1

警視庁上野警察署動物園前交番外観

設計者:
黒川哲郎
建築年:
1990年3月

就職のために東京に出て来て間もない頃、知人から上野動物園に行こうと電話で誘われた。 なぜ上野公園だったのかは判らぬ。 それに私は動物にはそんなに興味はない。 しかし、その名称を聞くと同時に遠い過去のことを思い出してしまった。
幼少のみぎりに、親と親戚に連れられて同施設を訪ねている。 その際、小動物を放し飼いにしているエリアで、私はヤギから襲撃を受けてしまったのだ。 お菓子(あるいは市販の餌だったのかもしれぬ)が入った紙袋を片手に持ってエリア内をウロウロしていたら、背後からヤギが近づいてきて紙袋をバリッとかじったのだ。 突然のことに驚いた私は泣きながら一目散に走り出してしまった。
で、知人に冗談交じりに告げる。 「ちょうど良かった。俺は、あの動物園でヤギに復讐を果たさなければならないんだ」と。 「ハア?何言ってんだ、お前?」 という知人に対し、上記の経緯を切々と説明する。 「バカなこと言っていないで、遅れずに来いよ!」 と知人はあきれて電話を切る。 まぁ、当然だ。

でもって当日。 上野公園を訪ねるのは久々。 園内に建つ巨匠の面々が設計した公共施設群については、当時の私には何が良いのか全く判らず。 むしろ交番の造形に興味を持つ※1。 そんな視線は動物園に入場してからも同様。 動物よりは、何か面白い建物は無いかなと視線は移ろう。 折角動物園に来ているのに、こんなことではダメだなと気を取り直しかけた瞬間、この象舎が目に留まった。

その個性的な外観については特に言を要しないであろう。 凹凸が設けられ変化に富んだ不定型な立面を持つ建物の屋上に異物の様に斜めに配置された六角柱のトップライト。 その様態は、まるで天空を凝視するが如く、あるいは天空から飛来しそのまま突き刺さったが如く。
写真ではその数は二本に見えるが、資料を確認してみたら六箇所設置されていたらしい。 それは象舎としての何らかの機能的要請に基づくものなのか。 あるいは象を居住させるハコとして、その身体的特徴を隠喩したものなのか。 いずれにせよ、その存在感は主役である象を凌ぎかねぬ。 否、当時の私にとっては、主役である象たちよりも明らかにこの建物の方が気になっていた。
残念ながら同施設は建て替えられており、改めて実見することは叶わぬ。 そして写真も冒頭に掲げた一枚しか撮っていなかったことが、今となっては個人的にすこぶる悔やまれる。

さて、リベンジの方であるが、えぇ、実行しようとしましたとも。 園内で販売されている餌を購入し意気揚々と放し飼いエリアに向かう。 そしてそこに群れるヤギ達にそれを見せつけておあずけをくらわしてやろうとした。 でも、他の来場者から餌を貰って穏やかに食す彼等の様子を見て、そんな気は最初から失せてしまった。 これはもう降参するしかない。 素直に餌を差し出し、それを喜んで食べてくれる姿を見て思わず和んでしまう始末。 「任務遂行は大失敗に終わったな」と傍らで眺めていた知人に笑われてしまったことも、随分昔のお話。



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2017.07.29/記