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建築探訪
なか安八王子店
所在地:
東京都八王子市
暁町1-36-6
竣工:
低層棟;1965年
高層棟;1972年

写真1:北側全景


八王子の市街地を東西に貫けるように流れる浅川。
その右岸に立ち、北側の方面を眺めると、何やら異形の建物が視界に飛び込んでくる。 逆立った鱗を纏っているかの如き彫深いファサード。 その表情に引かれるように、この河川に架かる暁橋を渡り対岸に歩を進める。
しかし、遠望では目立った筈のその建物は、近づけば近づくほど、その姿が見えなくなる。 狭隘道路に面して並ぶ家々に視線を阻まれ、その隙間から辛うじてファサードが見え隠れするのみ。
家並みが途切れ、駐車場が広がる敷地の前で、漸く近景の確認が可能となった。

逆立つ鱗に見えたのは、壁面から張り出して取りつくバルコニーの庇や手摺。 雁行を伴いつつ三次曲線が縦横に連続するそのファサードは、全ての立面に共通して施されている。
塔屋に掲げられた“なか安”の看板に、何の用途の建物だろうと、敷地が接道する北側に廻ってみる。 同様に幅員の狭い道路に面して立地するその建物は、更に不思議な様態を示す。 和風の門や庭園が設えられ、メインエントランスも入母屋瓦葺き屋根の二階建て和風建築。 その背後に、遠望でも確認されたコンクリートの量塊がそそりたつ。
デザインも素材もボリュームも全く異なる建物が並置されていながら、両者の間には取って付けたような違和感が無い。 それは、両者の間に低層のコンクリート造の建物が挿入されているためであろうか。 曲面で反りあがる軒庇を廻し、そこかしこに和風のテイストを付与させたこの低層棟の存在が、和風のエントランス廻りと背後の高層棟をかろうじて調律している。


写真2:南側外観


写真3:南東側外観

この建物は、懐石料理を営む飲食店。
同店のサイトを確認してみると、1950年に今現在の地に店を構え、1965年から66年にかけて三階建てのホテルと旅館を建設。 更に、1972年に高層棟の新館を増設したとある。
少々腑に落ちないのは、周辺のロケーション。 八王子駅前の繁華街から微妙に離れ、決して広くはない幅員の道路に沿って二階建ての戸建住宅が立ち並ぶエリアの一角に忽然と建つ。 この地を営業の場として選定した背景は何であったのか。
同建物の近傍に架けられた暁橋は、1923年に設けられたもの。 1973年にその東側に浅川大橋が架かるまでは、浅川を挟む両岸を往来する主要動線として機能した。 その南詰の田町界隈にはかつては遊郭が形成され、更にその南側には江戸時代の宿場町に端を発する八王子駅北口エリアの商業地が広がる。
そんな地勢の中で、川を挟んで少々落ち着いた現在地に店を構えたのかもしれぬ。



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