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建築探訪
渡邊建築事務所ビル
所在地:
東京都千代田区

建築年:
1962年5月

設計:
渡邊洋治

規模:
地下1階,地上5階
159.22平米

写真1:西側立面見上げ


※1
写真4

隣接建物との僅かな隙間設けられたコンクリート製の樋。
ガラス面を内側に倒し、それによって生じた隙間に樋を通している。
ちなみに、この周囲のガラスが全てサッシ等を介さず、コンクリートに直に取り付けられていることも確認できる。

建築家渡邉洋治が自宅兼オフィスとして建てたものである。
規模こそ小さいが、周囲を圧倒して余りある異様な存在感を放ちつつ、交差点に面する角地に鎮座する。

渡邉洋治といえば、軍艦ビルの異名をとる新宿の第三スカイビルや、マジラと呼ばれた独特のプレゼンテーション技法等々、文字通り異才の建築家であることは改めて述べるまでもない。 その評価のままに、自社ビルにも過激な造形が展開する。

外壁面に施された開口部の配置や竪リブ等の配列は規則正しい。 しかし、それら全体を構成するコンクリート面の粗暴さは尋常ではない。
更にその外壁面が全て銀色にペイントされているのである。 塗装自体の風化具合からは、相当前に施された様ではあるが、竣工時は打ち放しであった。
凶々しいコンクリート素面だけで十分魅惑的なのに、なぜその上に更に塗装を施したのか。



写真2:
北西側外観
写真3:
北側外壁面に配置されたバルコニー(二,三階部分)

このことに関しては、勿論推察の域を超えることはできない。 しかしながら、夥しい量の鋼板パーツを銀色に染め上げた第三スカイビルによって、自らの建築手法を一気に世間に顕然せしめた本人にとって、このペイントはこだわらなければならぬ建築言語であったのかもしれない。
結果として、コンクリートによる粗野な質感と、メタリックな塗装が醸し出す凶暴さが合体した凄まじい表貌を、そのファサードに実現することとなった。

北側立面に配置されたバルコニー手摺のデザインも異形である(写真3)。 二階の手摺には大きな孔が穿たれ、その奥に石仏が納められている。 そして三階に刻印された文様は、家紋か。 それらの手摺は、現場打ちコンクリートという条件下での施工性に配慮するならば少々無謀な形状であることが写真3からも窺い知れよう。
他にも、西側立面南端二階部分の雨樋としてデザインされた造形※1や、開閉機構を持つ開口部以外の全ての小窓がサッシレスで納められている等々、端倪できぬディテールが所々に凝縮され、見る者を圧倒する。

但し、内部のプランについては、各フロアに一居室を配置した平準的なもの。 作家性を表徴する過剰な表層の内側に、規範的な建築計画が納められている。 外観のボリューム構成からも、近代建築計画の基本に則った基準階を積層する素直なプラン構成が容易に想像できよう。



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参考文献:
渡邊洋治建築作品集
<「渡邊洋治建築作品集」刊行委員会>

2009.07.18/記