日本の佇まい
国内の様々な建築について徒然に記したサイトです
町並み紀行
建築の側面
建築外構造物
ニシン漁家建築
北の古民家
住宅メーカーの住宅
間取り逍遥
 
INDEXに戻る
建築探訪
安与ビル
所在地:
東京都新宿区新宿3-37-11

建築年:
1969年1月

設計:
明石信道

規模:
地下2階/地上9階

写真1:外観


※1
オクタゴン
所在地:
東京都渋谷区恵比寿西1
建築年:
1992年
設計者:
高松伸


写真4:外観の一部


※2
山梨県共済組合宿舎
所在地:
山梨県甲府市
建築年:
1959年4月

※3
日本アスベスト東京本社ビル
所在地:
東京都中央区銀座
建築年:
1961年5月

※4
山梨県県民会館
所在地:
山梨県甲府市丸の内1-9-11
建築年:
1957年


写真5:西側外観の一部
格子に用いられているルーバーは全て北西方向を向いている。

八角形の平面形状をプランの中心に据えた建築である。 その八角形は各層で各辺の半分ずつ、つまり22.5°ずらして積層されており、外観を特徴づけている。

設計者は異なるが、恵比寿に建つオクタゴン※1という名称の商業建築も、八角の平面形状を基本としている。 高さ方向のやや下方に設定した水平軸を中心に、上下対称に球形のガラス窓や金属による装飾を配置した構成が個性的だ。 あたかも周囲を睥睨しているかの如き力強いデザインという印象を受ける。 五叉路に面した人目につきやすい立地条件に対し、あらゆる方向からの視線に応答することを念頭に構想されたという。

安与ビルは、オクタゴンよりも20年以上前の作品であるが、JR新宿駅東口のロータリー脇という人目につきやすい立地に対し、同じような意図を持って設計されたのかも知れない。 但し、こちらは周囲を睥睨するではなく、逆に穏やかに視線を受け止めつつさりげなく自己主張しているという印象。
これは、全面に施された金属製の竪ルーバーによるものだろう。 格子の断面は、鋭角二等辺三角形の底辺を除く二辺をなだらかな孤で削り取った様な形状。 見込み寸法と格子間隔のバランスは繊細で、太陽光の加減により刻々とその表情を変える。
各層のずれを明瞭に視認させる上でも、この格子の連なりは効果的だ。


全景
ルーバー詳細

設計者である明石信道の作品集を見てみると、建物内外に竪格子をデザインの要として扱った事例が幾つか見受けられる。
例えば、山梨県共済組合宿舎※2のエントランスロビー、そして日本アスベスト東京本社ビル※3の外観ファサード二階部分に設けられた装飾や、山梨県県民会館※4の西側立面等々。 写真が中心で解説や図版が少ない作品集のため、竪格子の採用に対する本人の意識がどの程度のものであったのかは定かではない。 ともあれ、安与ビルはそれを全面的に推し進めたものと受け取れる。

エントランスホールに、この建物の名称の由来を記した川端康成の書が掛けられている。 そこからは、この建物に対するオーナーの愛着と誇りを読み取ることが出来る。



INDEXに戻る
参考文献:
明石信道作品集<「明石信道作品集」刊行委員会>

2008.01.12/記