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建築探訪
鳴門市瀬戸幼稚園
所在地:
徳島県鳴門市
瀬戸町堂浦地廻り参220-1

竣工:
1975年7月

設計:
増田友也

東側外観


※1
瀬戸幼稚園に隣接して建つ瀬戸小学校の体育館棟外観。

設計は同じく増田友也によるもので、1976年7月竣工。
その立面に取り付くサッシの割付けは、瀬戸幼稚園のそれとの関連性が見て取れる。

目的地に向かう路線バスは、鳴門駅を出発すると市街地を抜けて北上。 やがて県道182号瀬戸港線に入る。
進行方向の右手には背の高い防波堤。 その向こうに恐らくは瀬戸内海固有の風景が広がるのだろうけれども、連なる無表情なコンクリートの構造体に車窓からの視野を阻まれその眺望を愛でることは叶わぬ。 左手には集落を形成する家々が道路境界ギリギリに迫り、バスが進むにつれ道路幅員は徐々に狭隘に。 しまいには往来する車どうしがすれ違うことも困難となり、対面した際には必ず一方が路肩ぎりぎりに車を寄せて停車し他方が徐行しながらその脇を通り抜ける様になる。 この界隈に住んでいる人々にとってそれはあたりまえの日常らしく、すれ違う際にお互い必ず片手をあげて軽く挨拶をする。
幾度も遭遇するその光景に少々和んでいるうちに、バスは目的とする停留所「瀬戸小学校入口」に到着。 降車すると、潮の香りと波の音。 そして目の前に瀬戸小学校※1が建つ。 その校舎の背後に寄り添うように、当該幼稚園舎が立地する。

外観を眺める際、最初に目に留まるのは、豊かな軒高を持つ方形のボリューム。 いずれの立面にも、その中央に壁面に直交する壁柱が屹立。 その壁柱の上端を谷とするバタフライ形式の屋根が載る。 そしてその屋根の下に意匠化された割付けを施したサッシが全面に取り付き帳壁を形成。 帳壁や軒を壁柱の左右でやや雁行配置させることで立面に変化を与えている。 その構成が四面全てに共通して展開。 従って、屋根形状を含めた構造形態は何やらよく判らぬ複雑な様態を成す。



東側外観
南側外観
※2
冒頭及び文中に載せた建物東側画像の四方バタフライ屋根を持つ方形棟の手前右手に伸びるコンクリート打ち放しのボリュームがエントランス部分。

※3
鳴門市瀬戸保育所外観

所在地:
徳島県鳴門市
瀬戸町堂浦地廻り参214-5

サッシは殆どがアルミ製の部材に交換されているが、部分的にオリジナルと思しき木製のものも現存。 その内側には鋼製のバックマリオンがサッシの割付けと抗わぬように配置され、帳壁としての強度を確保する納まりが確認できる。
方形の屋内は無柱空間。 天井面は屋根形状そのままに変化に富んでいる。 四方に展開するバタフライ屋根の「谷」が集中する中央にトップライトが設けられ、四方のガラスの帳壁と相まって屋内は相当に明るくそして開放的だ(下画像)。
しかしこのトップライトの存在が、ますます屋根の架構形式を謎のものとし、更には屋根面の雨水排水形式も判らぬものとする。

近接する小学校校舎の外部階段を昇り、最上階の踊り場から同建物を俯瞰してみた(冒頭の画像)。 すると構造の概要が見えてくる。
四方それぞれの立面中央部に設けられた壁柱は、各面でその位置が僅かに中心からずらされている。 そのズレによって、四方の壁柱から建物中央に向かって架構される逆梁は井桁状となり、結果交差部の中央に生じる矩形の空隙にトップライトを配置している。 更には井桁フレームによってトップライトの四隅にそれぞれ発生する二本の梁の交点を起点に対角方向に「尾根」を昇り勾配を伴って形成。 シェル構造的な四方バタフライ屋根が出来上がる。
屋内に無柱空間を確保しつつ、園舎の求心的施設としての象徴性をその外観にもたせるべく企図された構造形式といったところだろうか。 ちなみに雨水処理は、逆梁によって四つに区画された屋根面それぞれにおいて壁柱直近が水下になるように水勾配を取り、その水下にドレンを設置。 そこから壁柱内に埋設した竪樋を介して排水する計画となっている様だ。

この方形の棟を中心に、園舎として必要な諸室を収めた棟がその周囲に接続する。
例えば、エントランス部分は細長い矩形のボリューム※2。 道路に面する北側の末端に出入口が設けられ、そこから屋内に入り筒状の空間を抜けると、光に満ちた方形の大空間に至る動線計画。
その印象的な空間体験を園児の日常生活に組み込もうとする意図が、やや強引とも思える構造形式と執拗に練り上げられた形態操作による内外の設えに繋がったのかもしれぬ。

バス停から幼稚園に向かう狭隘な道路を更に100mほど奥に進むと、鳴門市瀬戸保育所※3が見えてくる。 こちらは一昔前の木造校舎を思わせる質朴な雰囲気。
新進の気風を持った幼稚園舎との対比が面白い。



2019.05.11/記