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建築探訪
鳴門市文化会館/鳴門市健康福祉交流センター
所在地:
徳島県鳴門市
撫養町南浜

設計:
増田友也

写真1:東側外観


写真2:西側外観

広場を挟んで左手に鳴門市健康福祉交流センター、右手に鳴門市文化会館が対峙。
双方の間に分厚い庇を渡したゲートが設けられ、エントランスアプローチの構えをなす。

広場を挟んで二つのボリュームが対峙する。
敷地の東側を流れる撫養川の対岸から眺めた際(写真1)に、左手に見えるのが鳴門市文化会館、右手が鳴門市健康福祉交流センター。 用途も違えば、建物に求められるボリュームも異なる。 与条件に単純に従うならば、様相を異にする二棟の建物が互いに何ら関連性を持たぬまま並置されることとなってもおかしくは無かった。
否、正確に言うならば広場を介して並ぶ建物は二つではなく三つ。 鳴門市健康福祉交流センターは、もともとは鳴門市勤労青少年ホームと鳴門市老人福祉センターという二つの施設であった。 前者の建築年が1975年。 後者が1977年。 2016年にこれらが統合され名称も改められた。 そして鳴門市文化会館が1982年。 施工時期はそれぞれ僅かに異なっている。
これらの経緯にも関わらず、三つの建物は何の違和感もなく一つの纏まった端正な風景を形成している。 あるいは、それぞれは相補的な関係ともいえる。



写真3:
鳴門市文化会館
北西側外観
写真4:
鳴門市健康福祉交流センター
南側立面
写真5:

鳴門市文化会館のホワイエ。
正面のルーバーは外壁に対して角度が振って設置され金色に塗装。 エントランスから屋内にアクセスした際のアイキャッチとして機能すると共に、床に敷き詰められたカーペットの色との対比をなす。

写真6:

鳴門市健康福祉交流センターの内部廊下。

三棟は個々に独立して美しい外観を成してはいるが、いずれが欠けてもそれぞれの印象はやや後退したかもしれぬ。 広場を介して三棟が並置されることで、互いをより優化させる。
更に風景としての魅力は撫養川の対岸から臨む光景のみに留まらぬ。 例えば、メインアプローチである西側からの視線(写真2)。 前面道路に接する西端から撫養川を臨む東側に向かって広場を移動する際に、両側の建物外観にめくるめく様に展開する夥しいディテールの洪水が視覚に畳み掛けてくる。
あるいは敷地南東より撫養川に架かるうずしお橋から当該施設に向かって歩を進める際の三棟が織り成す視覚的な変化。 左右の建物全面に取り付く竪ルーバーが、時間と共に変化する深い陰影を立面に与える。
いずれもとても素晴らしく、カメラに収めるアングルを確定する風景のトリミング行為は極めて困難だ。

異種用途の公共建築によるこの奇跡の風景は、いずれも同一の設計者が手掛けることによって可能となった。 いや、たとえそうであったとしても、異なる用途に異なる規模、そして異なる建築時期。 余程の手腕が無ければ、あるいは発注者側の意思が無ければ成し得ぬことだったのではないか。
コンクリート打ち放しを基本とした同一の外装仕上げの採用。 共通の、あるいは同じテイストの意匠やディテールの展開。 ボリュームの分節と相互の周到な調律及び配置。 例えばそれは、中門や塔や金堂等の異なった形態の施設を厳格な比例関係をもって配棟し破綻無き全体像を造り出した古代寺院の伽藍の如くと言えるのかもしれぬ。

内観は、それぞれの用途に応じた奇をてらわぬ動線計画や諸室配置が行われつつも、先述の竪ルーバーの間のガラススリットから差し込む外光や、あるいは所々に穿たれたステンドグラスやトップライトからの光の導入によって、空間の質に奥ゆかしさを与えている。



2019.03.09/記