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建築探訪:長者町8丁目共同ビル
所在地:
神奈川県横浜市
中区長者町8-125

建築年:
1956年11月

設計:
創和建築設計事務所

施工:
第一建設

北側外観

※1
延焼リスク低減を目的に耐火建築物を敷地接道面に帯状に配して街区を跨り連続させる都市防災強化策。 耐火建築促進法を根拠に、同じ時期に同エリアのみならず国内主要都市の多くで事業化された。


※2
別途掲載している第二日吉ビル/神奈川県住宅供給公社常盤町6丁目共同ビルも、同様の事業形態に属する。

横浜市の関内エリアには、築年数を経た鉄筋コンクリート造の店舗併設型低層集合住宅が散在する。 それらは、1950年代から60年代にかけて地権者(複数の場合が多い)と神奈川県住宅供給公社が共同で建てた「市街地共同ビル」と呼ばれる建物。 個別の不動産事業でありながら、いずれも都市の不燃化を目的とした防火建築帯※1を形成すべく沿道型配棟を指向した土地利用がなされ、20世紀半ば以降のこのエリア固有の風景を醸成してきた。

当該物件も、そんな市街地共同ビルの一つ※2。 一階と二階を商業施設を中心とした非住宅用途。 三階と四階が集合住宅となっている。
接道側立面の二階以上のフロア全てに設置されたコンクリート平板のマリオンが外観の特徴を形作る。 いずれも小口を正面に向け、鼻先よりやや迫り出して上下スラブに支持。 その配列は、二枚一組の吹き寄せに設置したものと、一枚板を配したものの二種類が確認される。
前者は、各フロアの一区画を形成する界壁の位置と一致している様だ。 その間に後者が等間隔に並ぶ。 子細に確認すると、各区画の間口は一様ではない。 従って二者の配置は部位によって微細に調整されている様子が伺える。 しかし共通の考え方に基づいているため、目視において間口の相違はほぼを意識させぬ。

南東側立面
東側隅角部見上げ
そのマリオンは、二階では外皮を形成するサッシの連窓方立として機能。 そして三階と四階では、集合住宅の各住戸にアクセスする共用廊下外表の飾り柱となっている。 否、単なる装飾部材ではない。 見込みを深く取った板状断面によって、街路からの視線を和らげ入居者のプライバシーを確保する緩衝帯としての機能も意識されたのかもしれぬ。 更に屋上では転落防止手摺のフレームになると共に、建物頂部を引き締める意匠的な役割も担う。
層ごとに発生する異なる機能及び意匠の要請を、同一の部材及び配列にて処理。 異種用途と区分所有が縦横に積層する与件において、外観に一つの建物としての統一感を与えている。
東側外観
※3
当該建物は2018年頃に除却。 跡地には、商業や事務所などの非住宅用途と居住用途(サ高住)を収めた9階建ての複合建築が屹立する。
機能に深く関与すると共に外観を特徴づける意匠性も担うマリオンは、表面に施された塗装の経年劣化と相まって、時代を経た建物のみが醸す物質性を十分に帯びつつ交通量が極めて多い幹線道路に向けて長年に亘り存在感を放ち続けてきた※3
その風貌には、戦後の占領軍による接取が解除されたばかりの、「関内牧場」とも揶揄された荒涼とした一帯の復興に向けた心意気。 そして、商業地としての賑わいの形成や都市居住の可能性を見据えた新たな街づくりに対するかつての想いが静かに漲る。


 
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参考文献:
神奈川県住宅供給公社20周年記念誌
<神奈川県住宅供給公社(1971年11月発刊)>
2026.04.18/記