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建築探訪
カサ・ウィスタリア
所在地:
北海道札幌市
中央区南11条西1丁目1
建築年:
1973年8月
設計:
内藤設計
平井建築事務所
施工:
淺沼組 規模:
SRC11F/B1F 

南西側外観

札幌駅通りを南進すると、風景はオフィス街から商業地、そして「すすきの」と呼ばれる歓楽街へと移ろい、その終端で中島公園に至る。 当該物件は、広大で緑量豊かなその都市公園の東側に立地する。
字面だけだと都心に在りながらとても恵まれたロケーションの様に思えるが、しかし実際には幹線道路によって公園とは分断されている。 南北に短く東西に長い短冊状の敷地の三方は隣地に接し、西側のみ接道。 その向こう側に公園が広がる。 この条件において単純な配棟を行った場合、公園への眺望を直接享受できる住戸は僅か。 大半は、南若しくは北側の隣地を介して公園を眺めることとなる。
事業策定時こそ、敷地周辺には低層建物が連なるのみであったから、その視線も確保され得た。 しかし、その恒久性は保障されぬ。 隣地の境界ぎりぎりに同一規模の建物が立ち上がれば、眺望はおろか住戸として必要な採光や通風さえ危ういものとなってしまう。
そんな与件において、如何に恒久的な居住環境を確保するか。 当該建物の事業計画に当たって主要課題となったのではないか。

南北立面の外表に施された凹凸は、その解決策だったのかもしれぬ。 等間隔に並ぶ凹部は、いわば光庭。 そこを介し、天空光と風を住戸内に取り込む。
幅5.2m、奥行4.2m(躯体芯芯寸法)の凹部によって、低層階にもたらされる光や風は限られよう。 それでもなお、都市に住まう利便性とトレードオフ足り得る最低限のアメニティを確保し、分譲マンションとしての恒久的な商品性を付与しようと目論まれたのではないか。

※1

販売時の広告
冒頭の画像と逆の北西側外観パースが載せられている。 北面も南側外観と同じ構成。

こうして実現した特徴的な外表は青藍色を基本とし、凸部正面と側面の一部を白色に塗り分けることで更なるメリハリを与え、外観デザインの要となった。

建物の基準階は、東西に貫通する共用廊下の南北にワンルームの住戸が連なる。 住戸のタイプは広さの異なる2種を設定。 当時の販売資料※1には、それぞれ「シングル」「ツイン」と記載され「ホテルタイプのワンルーム」との表記。 また、不動産関連のローカル誌掲載記事には、

ホテル、オフィス、リビングの三つの機能をワンルームに集中させた新しい形のビジネスマンション。 ウォールキャビネット、ライティングデスク、コンパクトなリビングセット、冷暖房等、セカンドオフィスとしては勿論、プライベートルーム、レジャー用のセカンドルームなど、多目的に使い分けられる
と紹介されている。
その利用形態を補完すべく、一階には喫茶ラウンジや貸し駐車場、地階にはレストランや会議室、そしてトランクルーム等の共用施設が整備された。
※2

凸部下端のオーバーハング状況。 直下のピロティは、敷地内駐車場への車路。
凸部先端の右手に隣地境界が迫る。

同様の商品性を指向した集合住宅は、往時各地で盛んに供給され始めていた。 例えば、東京銀座の中銀カプセルタワービル(1972年)や大阪梅田のメタボ阪急(1971年)。 前者はその名の通り、各住戸が完全にカプセル化された積層体であった。 そして後者も、カプセルの積層状態が指向されたことは、その建物名称と併せて外観から容易に読み解けるものだった。
個の集住体としての建築用途にカプセル的なデザインを持ち込む共通性。 案外カサ・ウィスタリアも、並ぶ凸部に同様の意匠的指向が企図されていたのかもしれぬ。 例えばそれは、隅角部にコーナーサッシを連ねる措置。 あるいは、凸部自体が構造的には片持ち形式となっていること※2。 更にはその構造形式を視覚的に強調すべく施された外壁色の塗り分け等からも推察され得る。

当ページ掲載画像撮影時、南側隣地建物は二階建てのため、凹凸による光庭はその効果を発揮するには至っていない。 立地特性である中島公園への眺望も、曲がりなりとも多くの住戸が享受できる状況が持続していよう。 しかし北面は、同規模の隣地建物が迫る。 凹凸の効用が少なからず機能しているのかもしれない。

 
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2024.02.24/記