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建築探訪
パレロワイヤル夕陽ヶ丘離宮
所在地:
大阪府大阪市
天王寺区夕陽丘町

設計:
高松伸建築設計事務所

施工:
熊谷組

建築年:
1991年3月

構造:
SRC造8F/B1F

南西側外観


※1

バルコニー手摺のデザインには、既視感を覚える。 何かと思ったら、設計者がかつてドローイング作品として発表した「house with the ratio」に表現されたディテールを髣髴とさせる。 一連の修作が、形を変え機能を付与されて実現したといったところか。

小路を挟んで隣接する勝鬘院の境内に屹立する多宝塔と相対する様に当該集合住宅が建つ。 規模を異とし、そして意匠の構成規範も全く異なる。 それ以前に建築年代も用途もまるで違う二つの建築は、しかし異形の塔という一点でのみ共通項を持つ。

敷地内にL型に配置された住棟は、その屈折部を巨大な弧とし、そこに意匠を集中。 即ち、黒御影による強固な列柱。 その上部にシンメトリーを基本に各種ディテールを周到に配置した三層の屋階。 更にその上層に、機能とは無縁に肥大した塔屋が天空に向けて載冠する。
垂直性が強調された中央屈折部に対し、その両翼には独特な形を与えられたバルコニー手摺※1を伴うファサードが取り付き、全景に安定感を付与。 住戸が縦横に集積する集合住宅という建築用途に常に付き纏う単調で無味乾燥とした外観の露呈が、ここでは完全に排斥されている。
そして、この新古典主義を思わせる異形のデザインが多宝塔という奇異な伝統的建造物と相まみえることで、心地よい緊張感を伴う景観を醸成している。

ところで、当該建物の関係性はこの多宝塔のみに留まらぬ。 屈折部を形成する円弧の二等分線をそのまま延伸すると、多宝塔をややかすめつつ南西方向約1km先に屹立する通天閣に至る。 そう、外表を覆う夥しい意匠群によって創り出された強固な指向性を帯びるファサードは、これもまた異形の相貌を持つ同市の象徴として誉れ高きかの展望塔を真正面に捉え、厳かに睥睨していると読み解くことが可能だ。
これは偶然か。 それとも広域に及ぶ場の特性を読み込んだ上で設計者が企図したものであったのか。 いずれにせよ、互いに形象を異とし、そして関連を全く持たぬ三基の塔が一つの線分上に並置することで、見えざる、若しくは意味を持たぬ都市軸がそこに結ばれている。



INDEXに戻る 2017.10.07/記