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建築探訪
新桜川ビル
所在地:
大阪府大阪市
浪速区桜川3-2-1

竣工:
1965年1月

規模:RC造4F

写真1:南側外観


大阪市内を東西に走る幹線道路、千日前通り。 その直上を通る阪神高速15号境線は、汐見橋交差点において急カーブを描いて90度向きを変え、新なにわ筋直上へとルートを転換する。 大阪市営地下鉄千日前線の桜川駅を降りて地上に出ると、二本の幹線道路の交差点上を覆うそのダイナミックな景観が一挙に視覚に飛び込んでくる。 そしてそんな土木構造体を真正面に受け止めるかの如く、当該建物が屹立する。

その外観を一瞥した瞬間、建物の特徴をほぼ了解出来ることは、写真1からも明らか。 つまりは馬蹄形を成す平面形態。
しかしここで二つの疑問が沸く。 一つは、なぜこの形態なのかということ。 交差点の角地に面して大きな隅切りが生じた敷地形状に対応させるだけならば、なにもこの形状にする必要は無い。 L型に配棟し、隅切り部分に合せて斜めにボリュームをカットすれば事足りる。 その様に矩形にて単純に処理した方がプランも整形に収まるし建設コストも安く抑えられる筈。 そしてもう一つの疑問は、馬蹄形の外周にあたる高速道路に面して居室を並べたプランであること。 しかもそちらの立面は、北側である。 採光やプライバシーの確保、あるいは交通騒音への対処を考えるならば、通常は共用廊下をこちら側に配し、居室は逆の南側に計画するのが一般的であろう。 それが馬蹄形の内面であるために、対面住戸が発生するとしてもだ。 それに、それを回避するのであれば、先に書いたL型配棟を用いればある程度解決が可能だ。



写真3:
建物北西側からの見上げ。 カーブを描く直近の高速道の高架が建物北側ファサードの曲面とシンクロする。
写真2:
東側から観た建物外観。 右手に高速道路。直下は幹線道路の交差点。
※1
南側二階部分共用廊下外部建具詳細

敢えて二つの疑問を提示してみたが、しかしそれらの答えは建物外観や周囲のロケーションから容易に見い出すことが可能だ。 つまりは、幹線道路の交差点に面する都心の角地という立地条件に対する過剰な応答。 都市のダイナミズムを住戸内に直接取り込める住戸配置による都心居住の醍醐味の享受が可能な居住空間の獲得。 あるいはそんな都市性に向けた建築としての構えの創出。
更には、建物竣工から暫くして眼前に建設されることとなった高速道路の高架が建物ファサードの曲面とあたかも同心円状のカーブを描き、この場所固有の都市的構えの強化が図られることとなった。 もしくは、高速道路の持つスピード感にあわせた動的な意匠が建物に付与されることにもなった。

四階建ての建物のうち、下部二層が賃貸オフィスや店舗の用途。 そして上部二層が賃貸住宅。 つまりは、いわゆる下駄履き形式の建物だ。 建物裏側、つまり南面を見上げると、二階から四階に片廊下形式が採用されていることが容易に視認出来る。 二階部分は廊下の外皮に建具※1が嵌め込まれ、内部廊下の扱い。 嵌め込まれた建具は、欄間付の引違窓と竪方向に二等分した固定窓による規則的な配置。 更に、両端に突出し窓と固定窓を四段に割り付けた段窓を設けることで豊かな表情を与え、馬蹄形に近似させた多面体を成す壁面と相まって独特の意匠性を獲得している。
対して、三,四階部分の廊下面は凡庸ではあるものの、やはり馬蹄形のボリュームが面白い味わいを醸し出している。 一方、高速道路に面する北側立側は曲面の強調に最大限の意が払われた意匠。 そこに穿たれた開口部に、廊下側の様な表情は見受けられぬ。 しかし、内部用途に合わせた大小の窓をスパン毎に切り替えて配置することで、一定のリズム感を外観に添えている。



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