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建築探訪
都営桐ケ丘団地E4棟
所在地:
東京都北区桐ヶ丘

写真1


※1

増築住棟の事例。凹部の外壁面がもともとの南側外壁ライン。その前面に住戸面積拡張のために新たに増築がなされた。 この形式の住棟の増築は、桐ケ丘団地に特有のものではない。 昭和30年代に建てられた多くの公営住宅において確認することが出来る。
  

1957年から1975年にかけて整備された巨大団地。 豊かに育った木々の間に箱型の住棟が累々と並ぶ様は壮観だ。
その一つ一つを観ると、一部の住棟を除き南面に張り出すように増築がなされている※1。 個々の住戸が任意でバラバラに工事を行った訳ではない。 団地を管理する東京都によって同じ規格に則って全ての住戸を対象に計画的に実施されたものである。
団地建設当初においては、住宅不足への対応という喫緊の課題に対応するために各住戸の面積を絞った住棟を大量に供給。 しかし後になって、より良い住環境へのニーズが高まり、一住戸あたりの床面積を広げるべく南面バルコニー側に増築を図った。 その実施にあたっては、全ての居住者との調整等、相当の苦労が伴ったことであろう。
だが、その様な対応にも関わらず、更により良い居住環境を目指し、建て替え事業が段階的に進行中。 かつての住棟が織り成す群景は徐々に姿を消し始めている。

そんな一画に、周囲のそれらとは少々様相を異にする住棟が建つ。
妻外壁面に「E4」という住棟表示が掲げられたその建物の南側全面には、夥しい量の設備配管群が規則性を持って張り巡らされている。 建て替えに伴う居住者の退去が完了した住棟を用いて今後のストック活用に向けた設備改修技術の試施工でも行ったのかと思えてしまう程に、その有様はラディカル。 あたかもハイテク建築の如くだ。 設備の維持管理及び更新性において、機能を全て露呈させたこの形式を超える手法はあるまい。


写真2:南側立面
写真3:南側立面詳細
※2
浴室ユニットを据え置いたキャンティスラブの躯体断面も随分と厚い。 ユニット設置に伴うその自重と、浴槽に水を張ることを含めた積載重量を鑑み、構造補強措置が施された結果である可能性は高い。
  

詳細を見てみると、どうやらこの外観は、浴室を有していなかった各住戸に対してバルコニーの一部を用いてその用途を付加したがために発生した状況である様だ。
実際、浴室を収めていると思われるボックスユニットが、各住戸のバルコニーに設置されている。 その固定ないしは振れ留めのために、ユニットの前面にアルミ形材を用いたフレームが組まれ、方立を介して上下キャンティスラブの鼻先に支持されている。 そしてその浴室ユニットのための給排水管が周囲に巡らされ、最上階にはパラペット天端を超える高さに通気が並ぶ。 恐らく、この工事に伴ってバルコニー手摺もアルミ製のものに交換したのであろう。 これらの部材が住戸毎に機能的且つ規則的に配列されることで独特のリズム感をその表層に付与している※2
但し、腑に落ちぬことが二つ。 ユニットバスは、全階ではなく一層おきの設置となっている。 これでは住戸間で不公平が生じるではないか。 公営住宅らしくない。 それに、バルコニーは本来火災等の災害発生時の避難経路の機能も担う。 その経路上をユニットバスで塞いでしまうのは法的にまずいのではないか。 その対応としての垂直避難設備も設置されていない。
この二つの疑問については、住棟の北側に廻ってみることで直ちに解消した。 北側立面に並ぶ共用廊下も一層おきの設置となっている。 つまり、この住棟は二層メゾネット住戸を三フロア積み重ねた構成なのだ。

他の殆どの住棟が増築に拠る住戸改良の措置を施したのに対し、当該住棟が水廻りの改善のみの実施を選択した理由は何か。 それを知る術は無いが、今風に言うならばこれもストック活用に向けた施策の一つであったのかもしれぬ。
しかし、他の増築住棟と同様にそれにも限界があった。 改めて私が訪ねた2014年1月の時点で、住人は全て退去済み。 建替えに向け、周囲には仮囲いが張り巡らされていた。



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