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建築探訪
第3スカイビル(軍艦マンション)
所在地:
東京都新宿区
大久保1-1-10

建築年:
1970年

設計:
渡邊建築事務所

施工:
丸運建設

規模:
地上14階,地下1階

写真1:東側外観


南北に長く東西に短い短冊形の敷地形状。 更には、南側のみ道路に接し、他の三方は隣地境界。
竣工したばかりの頃こそ、周囲には二階建てや平屋の木造住宅が密集していた。 周囲を圧倒する高層建物であるがために、当時であれば、特に設計上の配慮や工夫が無くとも採光・眺望共に存分に享受が可能な居住空間を獲得することが出来たであろう。
しかし、そんな状況が恒久的に保証される訳ではない。 将来、道路に面する南側以外の隣地に同等規模の建物が密集したらどうなるか。 そのことへの過剰な配慮が、このマンションの極めて特異な形態を産み出したのではないか。

採光の恒久的な確保が可能な幅員の広い幹線道路に面する南側に、全ての居室の開口部を向けること。 そのために、極めて変則的な雁行状の平面形態が採用されたのであろう。
結果、道路に対して奥まった位置に設けられる北側の居室であっても、例外無くその与件を満たすことが可能となった。
設計プロセスにおけるそんな目論見の有無は判らない。 しかし、隣地境界ギリギリに同等規模の建物が立ちはだかる現況にあっては、この形態の有効性は明白だ。

当然ながら、解法は他にも有り得る。
例えば、光庭を各所に設けて採光の用途に供すること。 しかし、それでは低層階は、どうしても採光が乏しくなる。 また、窓を介した外部への視線の抜けも限られることになる。
この立地におけるこの敷地形状に建つ集合住宅という用途において、最も適した形態。 その考察と選択の結果がこのプラン形式ということになる。



写真2:
南東側外観。
手前の雁行形の白い建物は隣接する別の建物。
写真3:
南側外観見上げ。
隣接する同規模の建物との僅かな隙間に、南側に向けて開口を穿ったバルコニーが鱗の様に幾重にも並ぶ。

にも関わらず、この異形さはどうだろう。 編み出されたプランに対し、それを実現するためのディテールの開発にも、過剰性が纏わり付いた。
それは、図面をみても判る。 建築図面というよりは、工業製品の製作図であるかの如く、執拗に描かれた部分詳細図の数々。 立地条件への過剰な対応と、それを実現するための過激なディテール。 この建物の鬼気迫る異様さと美しさの根源が、そこにある。

こうなると、住戸プランもいわゆるマンション田の字と呼ばれる凡庸な形式に収まる訳がない。 あたかもフィッシュボーンの如く、住戸内に長大な廊下が設えられ、そこから分岐して連なる様に各居室が並ぶ。 ほぼ等しく南面採光を可能にした個室群住居。
そんなプラン形態は、築後40年を経過して、この建物に新たな用途を与えることとなった。



写真4:
屋上。
外観のポイントでも在る塔屋のみならず、外周の手摺内壁に施された意匠にも注目。
写真5:
住戸内から、バルコニーを介して外部を見る。
隣接建物との僅かな隙間から、南側への視線が辛うじて抜ける。
側面に等間隔に穿たれた小窓と相まって、昼間の室内は意外に明るい。
2011年4月、シェアSOHO及びシェアハウスとして改修が施され、今に至る。 その異形さゆえに、新進の就業形態や生活様態に対応し得たこと。 果たして、40年前に設計者がそのことを予測出来ただろうか。 いや、この際その予測の有無はあまり意味を持たぬ。 異形を創出した尋常ならざる設計への拘りが、結果として有効活用を伴う建築の存続へと繋がった。
設計者冥利に尽きると言えるのだろう。


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