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建築探訪
ライオンズマンション北斗
所在地:
北海道札幌市東区
北16条東2丁目

建築年:
1974年9月

規模:
地上7階,78戸

南側外観


※1
大友堀は、市内中心部では基本グリッドと一致している。 というよりも、現在は創成川と呼称されるこの堀を基軸に、碁盤目が整備された。 それが、東区のエリアでは向きを北東に変え、伏籠川へと注いでいた
※2
当該物件近傍の航空画像*

ほぼ南北軸の格子状の街路とは別に、45度に振れたもう一つの軸性が確認できる。

この集合住宅の住戸は全て「く」の字型の平面形状をしている。 その「く」の字を連続して並べる。 つまり、「くくくくく」といった塩梅。 そんなヘリンボーン状に住戸が連なる住棟を東西に二棟平行配置。 北側道路に面して配した平屋のエントランス棟で双方を繋ぐ。 また、西側の棟の接道面一階には商業施設が入る。 これが、当該建物の基本構成。

住戸配置の構成から、斜め45度振れた白壁が幾重にも連なる個性的な外観を実現している。 敷地は整形だから、素直に板状箱型のブロックプランにて計画することも可能であった。 にもかかわらず、このような形態を採用したのはなぜか。
ここからは推察になるが、南側に高校のグランドが隣接するという立地与件から、この形態が採用されたのかもしれない。
「く」の字型に連なる構成は、住戸の主要開口部を南東と南西に振ることになる。 室内から外部への日常的な視線を45度振ることにより、学校側とマンション側双方からの視線のダイレクトな錯綜の緩和を意図したのかもしれない。
あるいはそれは、東西二棟並列配置の前提条件の中で、対面する住戸どうしの視線が直接向き合う状況を回避することにもなる。 更には、西側に面する比較的交通量の多い道路に対して住戸の向きを振ることも意図されていたのかもしれぬ。



東側外観
北側外観

各住戸にアクセスする動線である共用廊下や階段、そしてエレベーターシャフトは全て住棟内に二戸一形式で納められている。 従って、集合住宅の用途において一般的に発生する共用廊下が外観構成要素として現れてこない。 あるいは、いずれの住戸のどの居室にもバルコニーが設けられていない。 そのことが、雁行形の当該建物の特徴をダイレクトに外観に表出させる。 特に開口が配されぬ壁面が並ぶ北側外観において、それは白亜の二枚の屏風の如く屹立し、他には無い清楚な佇まいを創り上げている。

近視眼的には以上の通り外観の特徴を読み解いて終わることになるが、広域的な立地与件を鑑みた場合、もう一つの解釈の可能性が見えてくる。 それは、このマンション近傍の街路構成。
札幌市内が碁盤目状の街路によって構成されていることはよく知られている。 しかし、ほぼ南北方向の軸性を持つその基本グリッドとは異なるもう一つのグリッドが、マンションが立地する東区内に散在する。
東区一帯は、開拓時代の初期において「元村街道(北海道道273号花畔札幌線)」や「大友堀」といった都市インフラが整備された。 それらは、南西から北東方向の軸性を成している※1。 基本グリッドから概ね45度程度振れたその軸性から派生したのであろう道路によって作り出されたのが、もう一つのグリッドだ。
異なる二種のグリッドが折り重なり錯綜する様態。 そんな街路構成がマンション近傍に散在し、結果、南北グリッドに対して45度程度に振れて建てられた建築物が散見される※2。 この様な地勢に呼応して45度の角度を伴う住棟形態が決定されたとするならば面白い。

ちなみに、更に話を飛躍させるならば、白一色の壁面は、45mm角のタイルがビッシリ張られている。 45度に振れた、45mm角タイル張りの壁面。 ということで、“45”という数字をダブル・ミーニングとして内在させた集合住宅ということにしておこう。



 
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引用した図版の出典:
* 航空画像:国土画像情報(カラー空中写真)<国土交通省>

2011.12.24/記