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建築探訪
ハザマ行徳社宅
所在地:
千葉県市川市

規模:
地上7階,地下1階

写真1:


※1

南側立面耐震補強実施状況。

※2

南側立面外壁面詳細。秀和レジデンスに共通する表層仕上げが施されている。
この物件の耐震改修に関する公表資料によると、バルコニー手摺も耐震改修前は秀和レジデンスの外観を特徴づけたロートアイアン製のものであった。

※3
当該ページの改訂に係る文章作成時(末尾の履歴参照)。


南西側外観。
耐震補強により立面に新たな表情が付与された。

1.耐震補強

当該社宅にカメラを向けたのは、その外皮に施された耐震補強に目が留まったため。 現行の耐震基準を満たさぬ建物に構造部材を後付けし補強を行う事例が現出し始めた時期に、物珍しさもあって写真に収めた。

建物の耐震性を語る際に、「新耐震基準」という言葉がよく使われる。 1981年の建築基準法改正で定められた現行の耐震基準。 1995年の阪神淡路大震災で、この新耐震基準以降の建物に被害が少なく、それ以前のものに被害が多いという傾向が確認された。 これを期に、新耐震基準以前の建物の耐震改修への関心が高まった。
当該社宅が耐震補強工事を実施したのは1998年7月。 ちょうど関心の高まりをみせ始めた時期と合致する。
地震時に建物に作用する力への耐性として保有水平耐力を向上させるため、バルコニーの用途に供するキャンチスラブの鼻先に鋼製ブレースを付加。 更にそのブレースと既存構造体の取り合い箇所を化粧カバーで覆い、転落防止手摺の一部をなす※1。 この補強に伴い外観イメージは大きく変わり、あるいは住戸内からの視線上に斜材が配置されることで眺望に影響を及ぼす住戸も発生した。
施工に関わる費用の捻出や、眺望や外観イメージに纏わる資産価値への影響等から、その実施に向けての住民同士の合意形成に至るまでのハードルは低くはない。 従って、補強に関わる各種技術の進展や補強を要するストックの量に比してその実施事例は未だ僅かなものに留まり、実績の推移は遅々とした状況に留まる。
当該物件において早い段階に改修が実現したのは、建設会社の社宅の用途に供していた点にあろう。 あるいは開発した工法に対する施工性や実用性を評価する目的で、自社管理建物を対象に試行されたものであったのかもしれぬ。


2.秀和レジデンス
冒頭に示した通り、当該社宅を目にした際の関心の対象は耐震改修の実施状況に留まり、従って撮影した画像もそのことに視点を向けたもののみ。 しかし改めてそこに映る建物の外観を確認すると、不動産会社の秀和が東京都心を中心に1970年代に数多く手掛けた「秀和レジデンス」に共通して用いられた特徴的な外壁と同様の仕上げが視認される。 即ち、独特なパターンを持つ大ぶりな凹凸を伴う彫り深い表情の左官仕上げ※2
当該社宅の周囲には、同社が手掛けた同様の物件がこの文章作成時点※3において三件現存する。 秀和第1行徳レジデンス(1975年3月竣工)、秀和第2行徳レジデンス(1975年2月竣工)、そして秀和第7行徳レジデンス(1975年7月竣工)。 そこに冠する数字や竣工年月から、少なくとも七棟の秀和レジデンスがこの界隈で同時期に事業策定されていたと考えられる。 では現存三棟以外の物件は今現在どうなっているのか。 その追跡は行っていないが、あるいは当該社宅もそのうちの一つであったのかもしれぬ。 事業開始時には分譲用マンションとして計画されていたものが、何らかの事情で社宅に転用された可能性。

3.進化する耐震性
改修工事実施から6年後の2004年12月、当該社宅は除却。 跡地には、別のデベロッパーによる分譲マンションが新たに建てられた。 当時の販売広告を確認すると、現行基準の1.5倍の耐震性能が謳われている。
耐震補強から、より高度な耐震性能を誇る住まいへの更新。 都市の居住まいはこうして変容し続ける。


 
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2011.05.14/記
2022.05.14/改訂