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建築探訪
三井三池製作所三池事業所設計棟
所在地:
福岡県大牟田市
旭町2

東側外観


※1

三井化学大牟田工場・J工場の北西側外観。

※2
冒頭の東側外観画像の屋上の右手に見える工作物が、当該看板。
建物の右側に通る国道208号に向かって社名が掲げられた。

予約していた大牟田市内のホテルにチェックイン。 指定された客室に入って窓から外の風景を眺めると、ちょうど真正面に三井化学大牟田工場・J工場(以下、J工場)※1が、周囲を圧するスケールで泰然と佇む。
同市を訪ねた目的の一つは、この工場の外観を建築的な視点で眺めて堪能することであった。 しかし、既に別のページで言及しているこの工場の手前にもう一つ、気になる建物の存在が目に留まった。
といっても、気になったのはその建物の外観意匠ではない。 それほど大きくもないその建物規模とのバランスを明らかに欠いた巨大な社名表示板が屋上に掲げられている※2。 そこに並ぶ文字は「三井三池製作所」。 ずいぶんと顕示欲旺盛だナ・・・。 窓辺から当該建物を遠望した際の第一印象は、その程度に留まった。

部屋で一息ついたのち、J工場に向かう。 その途上、当該建物の前も通ることとなる。 何の工夫もない単に目立つだけの屋上社名表示板を横目に素通りしようとするその足が、しかし当該建物の正面でピタリと止まった。 視界に入るその外観ファサードは、意外と悪くは無い。 否、悪くないどころか、なかなか端正だ。

立面の大部分に横連窓を廻してその上下に同一断面のリブを設ける構成は、J工場のそれと同様。 上のリブは霧除け、下のリブは水切りの機能を担うのであろう。 J工場と異なるのは、水平方向のそれと同じ断面を持つリブが一定の間隔で鉛直方向にも取り付いていること。 その配列は、建物の構造柱の配置と合わせたものであろうが、とても良いプロポーション。 そしてそのリブの配列が壁面に陰影をもたらし、外観に表情を与える。
こうして規則正しく並ぶ縦横のリブは、連窓が途切れ壁面のみとなる南側隅角部においても同様に張り巡らされる(右画像)。 一部を除きほぼ全ての立面において途切れることなくこの構成が施されることで四方の立面がいずれも同質の意匠を帯び、外観上の建物の裏表という概念を遠ざける。 と同時に、統一感を持った簡素で端正な意匠がどの方角からの視線においても知覚され得る佇まいが実現された。

私が訪ねた時点において、周囲には広大な更地と幾つかの商業施設が整備されていた。 そしてそのエリア一帯がかつては同社の事業所の諸施設が軒を連ねていた場所であったことを示す遺構が、更地の一角に慎ましく整備されていた。 最後まで残っていたこの設計棟も、そこに入居していた事業部の別所への移転に伴い除却。 跡地には商業施設が建設され、既設の商業棟と共に大規模なショッピングモールを形成している。


南東側外観。
屋外階段も、縦横のリブが規定するマトリクスに従う様にレイアウトされている。
また、本文中に載せた南側隅角部とは異なり、東側隅角部にはコーナーサッシが嵌め込まれている。


2019.09.21/記