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建築探訪
三井化学大牟田工場・J工場
所在地:
福岡県大牟田市
浅牟田町30

建築年:
1938年

写真1:南東側外観


※1
L工場(背後の高層棟)

※2
開発試験棟

JR九州の鹿児島本線及び西鉄天神大牟田線が乗り入れる大牟田駅の北東方向約1.2kmに位置する1912年創業の三井化学大牟田工場内に建つ。

大規模な化学プラントに固有の重厚長大なテクノスケープが豪放に展開する広大な場内には、創業以降の長い歴史の中で段階的に整備されてきた工場群がそれぞれに様々な形式を外表に纏って建ち並ぶ※1※2。 その中にあって、このJ工場と名付けられた高層染料工場は、白亜の外表と巨大なスケールによって際立つ存在感を誇る。
写真1だけではその大きさを捉えにくい。 しかし、この建物は7階建てにも関わらず47m(塔屋を含めると55m)の高さを誇る。 一層あたりの階高が非常に高いのだ。 大雑把に言ってしまえば、一般建築物の二倍前後の階高を持つ。

外観は、平滑な白い外壁面に水平方向に連続する開口部が積層するのみ。 その簡素な構成が四方いずれの立面にも共通して用いられている。 そしてセットバック等を極力排した、ほぼ直方体の単純なボリューム。 この明快さがシンボリックな意匠を成立させ、尚且つ市内の様々な地点から遠望可能な高さ及び建物規模と相乗し、更には地域の主要産業を担う用途という位置づけとも相まって、存在このかた長きにわたり市内のランドマーク的な立ち位置を保持し続けてきた。

立面を見上げると、各階の開口部の下端にボーダーが通っていることが判る。 面台として水切りの機能を担うであろう。 このボーダーが微細な陰影を平滑な壁面に刻み、横に連続する開口部によって表現される水平性を更に強化する。



南側立面
南側立面見上げ
南西側外観

この簡素な構成の立面のうち、南側と東側にはそれぞれ一基ずつ、折り返し形式の外部鉄骨階段が取り付けられている。 訪問時に鉄部全体に確認された発錆は、エイジングを感じさせぬ清楚な外壁面との強いコントラストを生成していた。
踊り場間に架け渡された段床を構成する踏み板の段数から、通常とは異なる階高が視認可能だ。 この外部階段の影が簡素な構成の外壁面に映り込み、日時計の如く刻々とその形を変えて外観にささやかな表情を添える。

西側近傍に、別ページに掲載している三井三池製作所三池事業所設計棟が立地。 同じく装飾性を排した近代的な合理主義に基づく構成手法をとりながら、J工場とは異なる佇まいを形成していた。 双方の対比、あるいは上述のL工場や旧開発試験棟等の敷地内各種施設、更には近隣の他社工場群等によって、かつては重工業地帯としての動的で壮大な風景が周囲一帯に広がっていた。 しかし、産業構造の転換等から、その風景も大きく変わりつつある。 そしてその変容の渦中に、当該工場も在る。



 
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2006.08.05/記
2021.06.19/改訂