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建築探訪
オックスフォード広島屋本社社屋
所在地:
大阪市中央区
南久宝寺町1-10-9

建築年:
1969年

写真1:東側外観


幅員の狭い道路に面して同じ外観構成要素を纏う建物がやや距離をおいて東向きに二棟並ぶ。
いずれも、二階から四階までの立面のほぼ全面にプロフィリットガラスを採用。 その両脇に厚みをギリギリまで削ぎ落としたコンクリート製の袖壁を配置している。
プロフィリットガラスと袖壁の間には間口の狭いアルコーブを設け双方の縁を切り、建物両端のエッジをシャープなものとしている。 アルコーブ部分の奥の壁にはフロートガラスを嵌めた開閉可能な縦長のスチールサッシが取り付けられており、プロフィリットガラスでは為し得ぬ通風や外部への視線の確保といった機能も担っているのであろう。
それぞれの棟は間口の幅が異なる。 写真1の向かって左側の幅広の棟は、中央に縦に一本、両脇と同様のアルコーブを設けることでプロフィリットガラス面を二つに分節。 結果、立面構成のプロポーションに関して右側の幅狭の棟との統一感を強化している(写真2)。
これらの意匠上の配慮によって、高さや規模が不揃いの建物が雑多に建ち並ぶ通り沿いの風景の中にあって存在感を保持。 あるいは、竣工してから年月を経ているにも関わらず凛とした佇まいを醸し出している。



写真2:
東側立面詳細
写真3:
背後で接続する両棟

写真4:
写真1〜3の東向きの棟とは別に、その近傍に建つ北向きの社屋。 左側の茶色のタイル張りマンションの左手の角を曲がると、写真1の東向き社屋が確認出来る。

両棟は分かれて建つ別々の建物ではなく背後で連結されている。 つまりコの字型の平面形状と読みとれる(写真3)。 コの字に囲われた中央の敷地は現況駐車場の用途に供している。 恐らく同社の専用駐車場と思われる。 しかし、以前は別敷地であった可能性が高い。 つまり、コの字型の敷地条件に合わせて建物を建てたらこうなったということなのであろう。 なかなか厳しい敷地条件ながら、分割せざるを得ない接道側立面に本社社屋としての設えを構えるべく意が尽くされた建物だ。

そんな印象を持ちつつ、当該建物の前を通り過ぎてすぐそばの道路の角を曲がる。 すると、妙な状況が目に留まった。
二本のマンションに挟まれた間口の狭い敷地に建つ北向き五階建てのペンシルビル。 そのファサードには、先程見掛けたコの字型の建物と同様の意匠が施されている(写真4)。
気になったので航空画像で確認してみた。 すると、最初に見上げた東向きのコの字型の棟と、この北向きの棟は一つに繋がった建物。 つまり、建物の平面形態はコの字に縦線を一本追加したアルファベットのFの上下反転形を成す。 Fの字の横線二本の箇所が最初に見上げた東側外観。 そして縦線の端部が、その後に観た北側の外観。 直交する二つの道路にそれぞれが面し、そしてそれらのファサードの周囲に空地や近隣建物が並ぶ。

恐らくこの界隈は、かつてはウナギの寝床型の民家が寄り添って建ち並んでいた。 その一敷地で事業を開始した同社が、業務の拡大に合わせて買い取り可能な隣地を取得。 その過程で作り出された不整形な敷地なりに新社屋を建設したか、あるいは徐々に増築を重ねた結果、今現在の状況に至ったのではないか。
近隣建物によって断片的に見え隠れする一つの建物が、共通のファサードを接道面に屹立させることでその複雑な平面形態を暗示する。 これはこれでなかなか面白い都市の一現象。 これから先、コの字型に挟まれた更地部分に同じファサードが建ち上がる日は訪れるのだろうか。 もしくは、全く別の建物がそこに建てられることで、見え隠れする建築という状況をより一層強化するのであろうか。



2018.09.15/記