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建築探訪
栃木県保健福祉会館
所在地:
栃木県宇都宮市
戸祭元町1-25

建築年:
1966年

設計:
大高建築設計事務所

施工:
東昭建設

南側外観


※1
当該建築探訪の栃木県庁舎議会議事堂のページ参照。

※2

北東側外観
東側妻壁面より突出しているボリュームが階段室。

県庁舎や議会棟、そして県警本部が連なり栃木県の行政の拠点を構成する広大な敷地の北西隅角部の斜め向いに、交差点を介して当該建物が立地する。 その規模は四階建てと小振りなもの。 しかしそこに表現された外観意匠は、その竣工の三年後に県庁の敷地内に姿を現すこととなる同じ設計者による県議会議事堂※1の出来栄えを予見・期待させるに十分な内容を実現していた。

建物の平面形状は、ほぼ正方形をなす。 東西妻面に階段室が突出※2し、更に西側にはエレベーターシャフトも取り付く。 垂直動線を外在させることで二階から四階に得られたプレーンな正方形の平面は、両端の階段を結ぶようにその中央を東西に廊下が貫通。 空間を南北に分割し、それぞれを事務室に充てる。 その事務室の隅に、エレベーターホールやトイレ、そして給湯室等のサービス空間を配置。 この基準階の構成とは別に、接地階には喫茶室や会議室、更に管理室等が配置された。

平面図を見ると、柱が少ないという印象を持つ。 正方形の空間内には、その中心に一本立つのみ。 その柱と位置を揃えて南北立面中央に外部に露出する形でそれぞれ柱を配置。 この三本以外は、東西階段室の分厚い外壁にその機能を担わせている様だ。 四階建てとはいえ、平面規模に比して構造上の鉛直支持要素が極端に絞り込まれている。
これは、当該建物の建設が保健福祉に関わる県内25団体の入居を目的とし、各組織の規模に応じて基準階の事務スペースが適宜分割されることを念頭においた構造計画だったのかもしれぬ。 実際、空間内唯一の中央の柱は中廊下に面しており、南北の事務室内は柱が一本も存在しない。 更にその中廊下ですら、入居する団体の規模に応じた南北の事務室の面積調整のために、フロアによってその位置が少しずつ異なっており、構造体の影響を受けぬユニバーサルなスペースを実現している。


南側立面
北面も同様の構成をとる。

南西隅角部

南側立面

この絞り込まれた鉛直支持要素に対し、建物としての構造を成立させるための梁が各フロアに縦横無尽に架構される。
その構造形式が外観の構成要素にも露出し、特に建物の四隅においてその意匠処理が顕著だ。 隅角に柱が立たない替わりに骨太の梁が力強く交錯する様子は、外観に堂々とした印象を与える。 また、無柱の隅角は、コーナーサッシの導入と相まって屋内空間に開放性をもたらすと共に外観のエッジにシャープな印象をもたらす。
更に、梁の上下に小庇と幕板を水平方向に通すことで立面に変化に富んだ陰影を生じさせ、彫りの深い表情豊かな外観を創出している。 因みに、幕板の内側は空調設備の設置スペースとなっている。
そして立面中央に屹立する柱が、左右対称形に纏めた構成の中心軸として外観を引き締めている。

こうして確認してみると、単なる装飾のための外装部材は一つたりとして存在しない。 いずれも、構造形態や室内外の構成に係る必要性から生じた要素に逐一意匠の処理を施し外観を整えていることが見えてくる。 小庇や幕板等に施された竪リブ斫り仕上げも、限られた予算の中で石張り等の外装仕上げを選択できぬ状況に対応した措置に過ぎぬ。
与件に応じた特異な構造形式の導入と、その形式と内外観意匠の調律・統合。 それは、この時期における大高正人の多くの仕事に見受けられる作風だ。 当該建物の三年後に完成した県議会議事堂も、異なる構造形式を持ちながら同質の手法を見て取ることが出来る。 この二つの建物が、県行政の拠点における特徴ある風景を創り出す重要な立ち位置を永らく担い続けることとなった。



 
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参考文献:
新建築1967年2月号<新建築社>
建築1967年2月号<青銅社>

2010.11.27/記
2011.10.13/概要欄追記,文章改訂,画像差替え
2020.03.07/文章改訂,画像差替え・追加