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建築探訪:汐見台会館
所在地:
神奈川県横浜市
磯子区汐見台1-6

建築年:
1966年

南側外観
※1
左手に接地階を商店街とした集合住宅。 手前に広場。 それらに面して当会館が立地し近隣センターを成す。

JR磯子駅。 その名称は海を容易にイメージさせる。 実際、地図を見ると直近に根岸湾が広がる。
しかし駅を出ても海の気配は全く感じられぬ。 東口には間近に首都高速湾岸線の二層式高架が横切り、その向こう側は工場地帯。 西口は、商業及び住居用途の中層建物が連なるそれほど広くは無い平地を介し標高50m程の崖地が切り立つ。 木々が生い茂るその急斜面が海食崖だと知って初めて、このエリアが臨海部なのだと認識させられる。

かつて、崖下は狭隘な砂浜。 駅が位置する辺りも海だったのだそうだ。
その地形が、昭和30年代半ば以降激変する。 沖合に向け広く埋め立て事業が施行され、京浜工業地帯の一部を成す。 そして連綿と連なる各社の工場に勤務する人々の住宅用地として、崖上に広がる丘陵地に県の住宅供給公社が72.6万平米に及ぶ住宅地を整備。 汐見台団地と名付けられたその造成地に、社宅や公営住宅、そして民間の分譲住宅が建ち並び始めた。
なだらかな起伏を伴う丘陵地に各年代の多種多様な中層集合住宅が建ち並ぶ景観はとても興味深い。 そんな一画に、当該会館が位置する。

西側外観見上げ

東側外観

直交し積層する二つの大きな矩形ボリュームが、柱によって力強く中空に持ち上げられる。 90度違えた軸性によって生じるオーバーハングやピロティ空間、そしてそこに取り付く外部階段やバルコニーによって全景に極めて動的な印象を付与。 更に、そのボリュームを貫く様にエレベーターシャフトやパイプシャフト等の垂直要素が屹立し、地域の核となる施設としての象徴性も獲得している。
一階は商業施設。 二階及び三階には事務所や会議室。 そして高層階には単身者向け集合住宅が配置された。
異種用途が積層する与件に対し、それぞれに求められるボリュームや諸室配置の最適処理が動的外形を生み出したと考えられなくも無いが、それとは異なる見立てもあり得よう。 即ち、埋め立てによって遠くなってしまった海を希求する姿の表現。 それこそがダイナミックな二方向のオーバーハングに顕れているのではないか。
かつて崖上の高台は、根岸湾への豊かな眺望が得られる別荘地でもあったそうだ。 団地名を「汐見」としたのも、そんな過去のこの地の特性(若しくは記憶)が込められたのではないか。 今はすっかり遠くなってしまった海への想いが、それに向かって増殖しようとするが如き力強い形態に表象された、などと読み解けなくもなさそうだ。

同会館に隣接して、特徴的なアーケードを有する商店街が設けられている。 会館とほぼ同時期の1965年に開設された。 更には福祉施設や病院等も整備され、当該団地の近隣センターを形成している※1



 
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参考文献:
汐見台の歴史
<汐見台文庫運営委員会(1983年3月)>
汐見台創立30周年記念誌
<創立30周年記念事業実行委員会(1996年10月) > 2025.02.08/記