日本の佇まい
国内の様々な建築について徒然に記したサイトです
町並み紀行
建築の側面
建築外構造物
ニシン漁家建築
北の古民家
住宅メーカーの住宅
間取り逍遥
 
INDEXに戻る
建築探訪
湯河原町役場第一庁舎
所在地:
神奈川県足柄下郡
湯河原町中央2

建築年:
1963年3月

設計:
佐藤茂次建築事務所

南西側外観


※1
敷地内に第二及び第三庁舎が隣接。 双方とも後年の増築。 第一庁舎との意匠的な関連性は無い。


※2
広報によると、敷地はもともとは民間の病院が立地。
また、三町村の合併を機に庁舎整備事業が推進されたとある。

敷地の西側は、箱根山へと続く山並み。 他の方位は、周縁が崖地若しくは法地となって地盤レベルが大きく落ち込み、その先に相模湾に向けた扇状地が広がる。 そんな山の端に当該庁舎が立地する※1※2
従って、敷地に面する道路とも、概ね建物二層分に相当する擁壁で高低差を処理している。 周囲より地盤レベルが高い庁舎にアクセスするため、敷地南面には擁壁に沿って階段が取りつく。 その階段を昇りきって最初に見える風景が、冒頭の画像。 そして敷地の北西隅角部から庁舎一階の車寄せに至る昇り勾配のアプローチを撮ったのが、下記北側外観の画像。

庁舎建築は、一つの棟に様々な用途を組み込む事例が多い。
例えば接地階には主に住民の各種手続きや相談に対応する窓口業務に係る部署を、来訪者に判り易く効率的な動線計画のもと配置することが一般的。 また、それらを収めるために他階よりも広い面積を要する場合が多い。 上層階には、接地階とは異なる性格の各部署の執務室や議会の各種諸室等を、これも個々の連携や動線を念頭において計画する。 更に、大容積の無柱空間を要する議事室を、他の部分の構造計画と擦り合わせながら一つの建物内に納めなければならない。

北側外観
南側外観

数多存する庁舎建築は、その様な与件をたくみに計画に取り込みながら、それぞれに固有の内外観デザインを実現している。
例えば、この「建築探訪」にて別途取り上げている「筑西市役所庁舎」における接地階正面右手の下屋の配置やその直上にピロティを伴って持ち上げられた議事室のボリュームの処理。 「九十九里町役場庁舎」に見受けられる接地階のボリューム処理と、最上階右手に組み込まれた議事室を成立させるための一部折板屋根の導入による外観デザインの動的処理等。 「秩父市大滝総合支所」の外観からも、類似の処理を見て取れる。
逆に、「十日町市役所松代支所庁舎」の様に、それら異種用途を一つの意匠の中に違和無く取り纏めている事例もある。
※3

東側外観。
立面として見える最下階は、地下一階。 敷地東側の地盤レベルが急激に下がるため、この面のみ地下階が地上に顕れる。 右手の分厚い庇は、南側外観で確認される一階パラペットが東側妻面に連続したもの。 背後上層に濃紺色のタイルを張った議事室。
湯河原町役場第一庁舎も、全体を幾つかのボリュームに分節。 それぞれに異なるテクスチュアを与えながら様々な用途や機能を破綻なく一つの建物として纏め上げている様子が覗える※3
接地階の面積を広くとり、その直上の分厚いパラペットによる力強い水平性の付与と共に基壇としての安定した構えを生成。 二階は外皮にガラス建具を多用し、基壇と上層階を分節。 そして上層の左手には各種執務室を、右手には議事室を収めたボリュームを明確に分節配置し、それぞれに異なる外装仕上げを与えている。
北東側遠景
庁舎をあとにし、周囲に広がる扇状地に降りて近傍の旧湯河原中学校に移動。 グラウンドから庁舎を遠望する。
高台に立地するがゆえに周囲から際立つその外観は、例えば周囲に建ち並ぶ家々の屋根が織り成す群景を水面と見立てるならば、そこに優美に浮かぶ客船の如し。 水平性が強調された基壇としての接地階や、その上部に積層するボリュームの隅角に施された曲面や微細な壁面の傾斜が船舶へのイメージを喚起させる。 そしてその船首が向かう先には相模湾が茫洋と広がる。
それは敷地形状に起因する偶然か、それとも設計を進める上で強く意図されたものであったのか。 建物単体だけではなく、周囲の町並みや立地の中で眺めると、そこに固有のコンテクストが見立てられてくる。


 
INDEXに戻る
2025.07.19/記