日本の佇まい
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建築探訪
神奈川県警察本部・尾上町分庁舎
所在地:
神奈川県横浜市
中区尾上町1-1

規模:
地下3階

写真1:T字路から観た全景


横浜市庁舎の向かい側。 みなと大通りと尾上町通りが交わる丁字路に面した角地に立地する。
敷地の隅切りに合わせて曲面で構成された外壁をそのT字路に向けることで、街路に対して表情を作り出している様にも見えるが、しかし何とも風景への収まり方が微妙だ。
それは、中高層建物が建ち並ぶ中に取り残されたかの如き三階建てというボリュームのためだけではない。 何かが足りないと思ったら、建物にあるべきエントランスらしき構えが見当たらないのだ。
どこから屋内に入るのかと思いきや、建物の隅に唐突に配置された外部鉄骨階段の踊り場に面して、裏口の様な鋼製ドアが付いている。 更には、写真1左手の妻側にも入り口があるが、同様に一般の人の出入りを想定した構えではない。

正面玄関の不在。 しかしそのことによって、ファサードの構成が純化されている。
各フロア横一列に、同じ規格のサッシを連続配置。 曲面の部分も、多角形で近似すべく同一規格のサッシが割り付けられている。 その徹底的に無機的な装いが、逆に何とも美しい。



写真2:
コーナー部分見上げ
写真3:
南側外壁詳細
※1
若葉町市街地住宅

写真4:南東側外観

1961年に建てられた、UR都市機構による市街地共同住宅。 一階を店舗や事務所の用途とし、二階以上を住戸としている。
交差点に沿って、L型の配棟を成している。 しかし、写真4左手の妻面を捉えた写真5を見ると、開口部が全く無い壁面となっている。


写真5:南西側外観

これは、更に左側の敷地に同様の建物を接続し、街区型配棟への進展が考えられていた名残なのかもしれない。

建物用途は、神奈川県警の分庁舎。
建物の使用目的から、まともな玄関の設えは必要ないということであったのだろうか。 しかし、その微妙な街並みへの収まり方からは、一つの可能性が見えてくる。

この微妙な佇まいは、周囲に散在する公営の市街地共同住宅のそれと似ている※1
分庁舎が位置する尾上町やその界隈は、戦後暫くの期間を経た後のGHQからの摂取解除に伴い、比較的整形な街路が敷設された経緯がある。 その整形な街路に計画された公営共同住宅は、道路に沿って住棟をコの字ないしはロの字に配置して中庭を設ける「街区型」の配棟が構想された。
しかし、土地買収の関係から思うように計画は進まず、「街区型」の一部分のみが造られるに留まった事例が多い。 やがては街区型へと進展することを指向しつつ、完結せずに唐突に途切れた様な建物形態。 そんな市街地共同住宅の様態と、分庁舎の都市への収まり方は、どこか似ている。

もしかすると、この分庁舎も街区型のブロックが構想されていたのかも知れぬ。
市街地共同住宅と同様、その一部分のみが完成したものの、その後は周囲の土地取得もままならず、今日まで至った。 計画通りに整備が進めば、ロの字型ないしはコの字型の平面形状を持つ庁舎が出来上がり、エントランスもしかるべき場所に設えられたのかも知れぬ。 それが叶うことなく部分的に完成した状態で供用されている。
勿論これは勝手な推察でしかないが、そんな経緯によって、この建物の都市への収まり方を、なんとも微妙な印象にしているのかも知れない。

この建物のファサードを両翼に拡張し、街区型の建物として完成した状態を想像してみるのも、なかなか面白そうだ。



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