日本の佇まい
国内の様々な建築について徒然に記したサイトです
町並み紀行
建築の側面
建築外構造物
ニシン漁家建築
北の古民家
住宅メーカーの住宅
間取り逍遥
 
INDEXに戻る
建築探訪
勇稲荷神社
所在地:
茨城県ひたちなか市
釈迦町9-23

写真1:南東側外観

那珂湊駅前に広がる家並みの向こう側にこの小振りな建物の裏手を垣間見た際、瞬時に興味が湧いた。
コンクリート版で造られた急勾配の切妻屋根。 そしてその頂部に載冠する力強い棟木の表現。 恐らくRC造を用いて神明造かあるいは合掌造りを現代的に解釈した外観の建築なのではないかと予想しつつ、建物の正面に向けて歩を進めた。

しかし、建物を前にして予想は軽く裏切られる。
駅前広場から延びる道路に面して屹立する神明系の鳥居や参道に対して本堂の軸性を僅かに振る配棟は伝統に則ったもの。 だが、その外観は神明造や合掌造りといった既存の様式の参照を拒む。
確かに急勾配のRC造の版が合掌状に組まれてはいるが、更に床スラブを地盤から切り離して基壇を成す。 それによって力強い三角形の図像が際立つ。 更にその三角形の重心を起点に点対称の逆三角形を重合。 六芒星の如き立面を形成している。


写真2:
南東側立面

写真3:
北西側外観
※1

妻側パラペットの中央に設けられた嘴樋詳細。

六芒星の頂部に位置する三角形の壁面には矢羽根の化粧目地。 そして立面中央に配置された二枚引違い出入口戸の左右に狐のシルエットを図案化した木パネルが張り付けられている。 建物を真正面に見据えた時、そのパネルと前面に配置された狐型の狛犬がきれいにオーバーラップするところが面白い。
逆三角形の水平線は、建物の実質的な屋根面。 その陸屋根の四周にパラペットを廻し、力強い水平ラインを形成。 妻側中央部に嘴樋を設け、陸屋根とそれより上層の合掌部分に降り注ぐ雨水を処理する※1
合掌部分の棟は、千木か鰹木の連なり若しくは笄棟や芝棟を想起させる力強い水平ラインをVの字断面で形成。 それ自体も建物頂部の止水性に配慮した排水溝の機能を果たすのであろう。

呪術的な意味合いを強く持つ六芒星の図像を立面に採用し、且つ建物全形を構成した背景。 そこにはこの社の縁起と何らかの関わりがあるのか否か。 解説した掲示などが境内に一切無いために窺い知ることは出来なかった。

2018.05.26/記