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建築探訪
真壁町中央公民館
所在地:
茨城県桜川市
真壁町真壁
竣工:
1966年

備考:
現存せず

写真1:外観


※1
香川県庁舎

設計:
丹下健三/
丹下健三・都市・建築設計研究所

所在地:
香川県高松市番町

竣工:
1958年5月

歴史を経た伝統的な建物が多く残る落ち着いた街並みの一角に、この公共建築が建っていた。
とりたてて優れた意匠の外観を持つ建物という訳ではない。 しかし、規模の割りにたっぷりとした奥行きで張り出す2,3階のバルコニーと最上階庇に設けられた手摺や軒裏の片持ち小梁の連なりが意匠の特徴を決定しているところが興味深く、この場に取り上げてみた。

外壁の全面(あるいはほぼ全面)にバルコニーを廻し、そのバルコニーを意匠の要とする形態のルーツは、どの建物であろうか。
例えば、香川県庁舎※1は、その様な外観を纏うと共に、そのバルコニー廻りに施したディテールとプロポーションによって、コンクリートに置換された日本的情緒の表現に成功した作品として高い評価を得ている。 そして、全国各地の庁舎を中心とした公共建築に、この香川県庁舎を範としたデザインが取り入れられる時期がその後暫く続いた。 この真壁町公民館もそんな流れの中に位置する建物なのかもしれない。
といっても、そのデザイン処理に香川県庁舎の様な絶妙さや繊細さは見受けられぬ。 外観構成要素の配置に関わるモジュールの考え方を含め、むしろ、ややいびつなところが微笑ましくもある。

バルコニー及び庇の先端は、小梁の小口を覆う様に垂れ壁が廻され、水平性を強調。 そしてその垂れ壁の上にプレキャストコンクリート製のものと思われる手摺支柱と横桟が規則正しく組み合わさり並べられている。 横桟は二本。 そのうち下段の方は支柱との取合い部全てに後補のものであろう補強金物が付与。 骨太な部材の間に取り付く繊細な要素として外観に表情を添えている。


写真2:手摺詳細

写真3:正面見上げ

既に当該建物は現存せぬ。 ここに載せた写真を撮影してから暫く経て再訪した時点においても、屋上階手摺が落下養生ネットで覆われる等の経年劣化の進行が確認され、供用の継続が厳しい状況は明らかであった。
旧態を極めて良好に保つ香川県庁舎のことを思えばメンテナンスの問題が大きく関わる訳ではあるが、建物の存続は物理的な維持管理のみの問題ではない。 公共建築物として要求される機能性が、その器を越えてしまっていた面があったのかもしれぬ。
同建物の跡地には、公民館のほかに図書館や歴史資料館を併設した「桜川市真壁伝承館」という名称の複合施設が2011年に竣工。 その外観は、周囲の町並みとの調和が十分に意識されたもの。 計画策定時の潮流を取り入れて周囲とは切り離された意匠で建ち上がった旧建物とは、町並みに対する考え方は大きく異なる。 町並みそのものの価値に対する捉え方が半世紀の間に大きく変わったことをそこに読み取ることが出来そうだ。



参考文献:
真壁町史略年表<真壁町史編さん委員会>

2008.03.08/記
2016.12.17/改訂