日本の佇まい
国内の様々な建築について徒然に記したサイトです
町並み紀行
建築の側面
建築外構造物
ニシン漁家建築
北の古民家
住宅メーカーの住宅
間取り逍遥
 
INDEXに戻る
建築探訪
みなかみ町観光会館
所在地:
群馬県利根郡
みなかみ町湯原45

設計:
カトー建築事務所

設計監理:
大高建築設計事務所

施工:
萬屋建設株式会社他JV

建築年:
1970年11月

写真1:外観


※1

写真2:
大ホールのホワイエ

国内の多くの温泉地に見受けられる風景。 即ち、やや時代掛かった意匠を纏う鉄筋コンクリート造の巨大旅館建築が累々と連なる様相が、当該建物が立地する水上温泉においても例外なく展開する。
昭和半ばの高度経済成長。 そしてその時期に相次いだJR上越線の複線化や有料道路「紅葉ライン」の開通といった、この地域を取り巻く広域インフラの整備。
これらの波に乗って、競うように各温泉旅館の増改築が繰り広げられた時期が、この地にもあった。

拡大志向に依拠した町の変貌。 そんな時代背景と共に、この公共建築が存る。
最新の設備を網羅した巨大コンベンション施設を設置し、各種会議やイベントを誘致することで更なる町の活性化を図る。 概ねこの様な目的のもと、統合移転した町立水上中学校跡地に当該建物が建設された。
最大1500人収容の大ホールや、大小さまざまな会議室や研修室、そして結婚式場。 更には、それらの施設利用者を余裕をもって迎え入れることが可能な壮大なホワイエ※1。 当時の地方都市の施設としては破格の内容を持つ公共施設が、巨大温泉旅館群に寄り添うように建てられた。

その建物の外観は、全体構成を把握することにやや手間取る。 それほどに、複雑な形態を成しているという印象を受ける。 しかし、実際の構成は明解なものだ。
方形屋根と、その屋根と45度の振れをもって外接する矩形によって成り立つボリュームを二つ、外接矩形の隅角の一つが向かい合う様に離隔を設けて配置する。 そしてその間にもう一つ、双方の外接矩形に対して90度振れたボリュームを挿入することで一棟を成す。


写真3補足
中央に掲げられている縦5m×横9mの大壁画は、市民のワークショップによって2008年に作成されたもの。 谷川岳に分布する高山植物「タテヤマリンドウ」が描かれている。


写真4:南西側外観
写真3の右手部分の立面。 方形屋根に対し45度振れた外壁面や出窓、そして塔などの要素が複雑な外観を形成。
写真3:西側外観
複雑に雁行した壁面が連なる。
※2
2006年に「芸術文化の薫る町・自然とアートの共存する町」を目指し「芸術村設立実行委員会」を発足。 アートによる地域振興が進められている。

角度を振ったボリュームを複数並べて複雑に雁行した外壁面を構成し、そこに勾配屋根や出窓、更には高窓や塔といった要素を組み合わせることで、更に変化に富んだ表情を与える(写真3)。 これらの形象が、南西から北東に向けて建物中央を貫く一本の軸線状に配置されることで、極めて強い軸性によって統制された全体像が作り上げられている。
建物の南東端部を捉えた外観が、写真4。 屹立する二本の塔が外観に象徴性を与えている。 この塔を含む南東側の方形屋根を載せたブロック(写真1の右側)には、前述の結婚式場や管理施設等が収められている。 二本の塔の間には、竣工当初は市民の寄付に拠る鐘が吊り下げられ、カリヨンの用途に供していた。
南東側のそれよりも大きな方形屋根が載せられた北西側のブロック(写真1の左側)には、大ホールや会議室等がレイアウトされている。

様々な用途が複雑な形態操作の下に計画されながら内外観共に破綻を来していないのは、軸性の存在に拠るところが大きいのであろう。
この南東から北西に通された軸性は、如何なる意図をもって設定されたものなのか。 その考察は、推定の域に留まることとなる。
例えばそれは、単に敷地利用の適正を求めた結果に過ぎぬのかもしれない。 あるいは、敷地が面する国道291号からの視線を意識し、規模や外観上の特徴に関し、この道路からの見栄えが最も効果的になるよう、配慮されたのかもしれぬ。
しかし、それらとは別の仮説が、建物周辺の広域に向けた視野から見えてくる。 つまり、軸線の北東方向遠方にそそり立つ谷川岳、そして南西方向に広がる温泉地の中心街。
そんな地勢への呼応が軸性決定要因であったとするならば、面白い。



写真6:南東側外観
写真5の右側の方形屋根部分の棟。 その南東側先端に屹立する二本の塔を起点に建物背後の北西端に向けて軸性が貫き、その軸線の遠方に谷川岳が望める。
写真5:北西側外観
二つの方形屋根が一つの軸線上に配置されている様子が判る。 軸線の右手に温泉街が広がる。
同様の施設が全国津々浦々に存在する現状において、コンベンション施設としてのこの建物の現在の稼働率は如何ほどのものなのであろう。 もしかすると、その状況は時期を同じくして拡大に継ぐ拡大を推し進めて来た周囲一帯の巨大温泉旅館群と相通じるところがあるのかもしれぬ。
その立ち位置は、時期を同じくして拡大に継ぐ拡大を推し進めて来た周囲一帯の巨大温泉旅館と相通じるところがあるのかもしれぬ。
現在、この施設は東京藝術大学の卒業・修了作品の収蔵にも活用され、アートによる町おこし※2の一翼を担っている。 温泉地としての興隆期に建てられた同会館は、今現在も地域活性の拠点として位置付けられている様だ。


INDEXに戻る
参考文献:
町報みなかみ<みなかみ町>
建築趣味<磯達雄>

2013.10.05/記