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建築探訪:不動堂海水浴場監視塔(不動堂管理事務所)
所在地:
千葉県山武郡
九十九里町不動堂

建築年:
1985年

南東側外観
房総半島の太平洋側に広がる九十九里浜。 その中央部に位置する不動堂海水浴場へと内陸側からアクセスする手前で、海への眺望が延々と遮断された状況に出会う。
海岸線に沿って敷設された九十九里有料道路。 海岸堤防の機能も担う路体盛土上に敷設されたこの自動車専用道路が、結界の如く浜辺と集落とを物理的に分かつ。
道路下を横断するトンネルを通り抜けて初めて、全長66kmに及ぶ海岸への視界が開ける。 田畠と家並みが併存する穏やかな日常風景と、砂浜と海原のみの世界。 分断された両者を辛うじて繋ぐ、距離にしてほんの僅かなトンネルは線形の結界を貫通するワームホール。 そのワームホールを海の方に抜けた先に、当該施設が位置する。
波間に戯れる人々を見守る海水浴場監視員(ライフセーバー)の詰め所。 同海水浴場の開設期間中のみ供用される施設だ。
西側外観
南側外観
※1
九十九里ビーチタワー(画像左手)

砂浜に横たわるように置かれた矩形のボリューム。 そして海原に向かって塔屋が突き出すフォルムは、どこかギザの大スフィンクスを想わせなくもない。
スフィンクスが古代文明における守護神の具象としてピラミッドの手前に鎮座し来訪者を睥睨しているのと同様、当該施設も刻々と変化する波間を四方睨みしているかの如き構え。 古今東西の時空を超え、守護を司る物理存在が似姿を纏い砂上に築かれる。
形だけではない。 双方共に東の方角を向いている点。 そして監視塔の隣には「九十九里ビーチタワー」※1と名付けられた円錐形の展望施設、つまりピラミッドと同様に頂部が尖った形状を持つ構造体が配されている点にも奇妙な符合が読み取れる。

塔屋の壁面は、隅角部を含め可能な限りガラス張りの開口とし、海に向けた視野を確保。 その開口と上下の分厚いスラブが織りなす特徴的な表情が、地面から高く持ち上げられ且つ三方に大きくオーバーハングする形態と相まって、垂直性と海に向けての軸性を強調する。 一方、平屋の矩形ボリュームは、開口も少なく無表情。 海に長軸方向を向けて水平性を伴いながら寡黙に基壇としての位置づけを担う。 相異なる二つの形態の間を、三角立面の外部階段が結んで全形を成す。
その姿は、海を監視する目的に供しているだけには見えぬ。 結界の向こう側、ワームホールの背後に広がる日常領域の守護神として壮大な海原に対峙している様でもある。 即ち、スフィンクスだ。



 
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2025.01.18/記