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建築探訪:九十九里町役場庁舎
所在地:
千葉県山武郡
九十九里町片貝4099
竣工:
1968年11月

規模:
RC3F
1817平米

北西側外観

現地に向かうためにJR東金駅から乗り込んだ路線バスは、市街地を少々巡ったあとは一本の道路をひたすら九十九里浜に向けて進む。 東金片貝線と呼ばれるその県道を移動する際の車窓からの眺めは田畑と戸建て住宅がまばらに混在する。 そんな変化に乏しい風景を眺めつつ15分余。 九十九里町役場前停留所到着の車内アナウンスを確認し、降車ボタンを押す。
バスを見送りつつ周囲を見渡すと、特にそれまでの車窓からの風景と変わらぬ様相。 例えば町の中心部とか、あるいは行政機構の集積地といった雰囲気は一切ない。 なぜこのロケーションに?という第一印象と共に眺める庁舎の外観は、しかし明らかにそんな近隣とは趣きを異にする。

校倉を思わせる塔屋。 三階部分はオーバーハングしたバルコニーの先端に等間隔にマリオンが吹き寄せで取り付く。 二階と一階の間には斫り仕上げを施した竪リブを密に並べた幕板が横に並ぶ。 その幕板の配列に沿って建物の東側に視線を移動させると、その幕板は下屋として張り出した一階部分の屋上の手摺に置き換わる。

南側外観見上げ
南東側外観


北東側外観


エントランス廻り見上げ。
中空の矩形断面を現しとした庇が前面に張り出す。

東側に大きく張り出す下屋は、建物正面の対称性を崩す。 また三階の一部にも折板屋根を用いた高屋根が偏在し、外観に動的な要素を添える。
折板屋根は議場としての無柱の大空間を確保するためのものであり、その平面計画の要請から偏在配置となったのであろう。 あるいは下屋も、各種行政サービスに係る窓口業務を担う部署を一階に収めようとした結果必要となった容積に対応した措置。
屋内の諸室配置の要請に逐一応え、かつ様々な外観構成要素を導入しながら、しかしその全体像は全く破綻していない。 いずれのディテールもコンクリートの質感を押し出しながらもどこか和の雰囲気を再構成しようとする意匠の徹底。 それが可能とした纏まりであろう。 そしてその意匠への意思は、当該庁舎が整備された年代における国内各地における庁舎建築の大きな潮流とも合致する。

県道25号を挟んで庁舎の斜め向かいには、町立の片貝小学校。 また、庁舎の裏手にも中央公民館が在る。 唐突感を覚えた立地も、公共施設が整うエリアという位置付けになっている様だ。
公民館内に設置されている図書室で町史に目を通してみる。 すると、当該庁舎の立地が1955年の周辺町村の合併に由来することが記されていた。
一部引用すると

学校前停車場より約二百米の地点にして、片貝東金線県道に直面せる至便の点等により・・・

と、合併後に町役場を設置する場所の選定事由が述べられている。
学校前停車場とは、かつてこの地に運行していた九十九里鐵道が片貝小学校前に設置した駅のこと。 同鉄道は、1926年に開業し1961年に廃線。 軌道敷の一部は遊歩道として整備され、町立片貝小学校の南側を通る。
その道を歩いてみると、学校前駅の跡を示す表示。 そして小学校のグラウンド越しに現庁舎が眺められる。 現庁舎の竣工は鉄道が廃止されて暫く経ったあと。 だから、当該鉄道と現庁舎には何の関係もない。
しかし駅施設と旧庁舎の位置関係は辛うじて視認可能。 また、かつて東金と九十九里の浜辺を結び地域住民や観光客を運んでいた鉄道の面影も、小ぎれいに整備された遊歩道によって微かに偲ばれる。 更には、庁舎を訪ねるために利用した路線バスも、その鉄道会社が事業を継続し運行するもの。
この地の歴史の変遷が、引き継がれたもの達によって生成される何気ない風景の中で連関しながら沈積している様子が視界に立ち顕れて来る。


 
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2023.08.26/記