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建築探訪
千葉県行徳野鳥観察舎
所在地:
千葉県市川市
福栄4-22-11

竣工:
1979年12月

写真1:外観


市川市の沿岸部に広がる行徳近郊緑地特別保全地区。 鳥獣保護区及び宮内庁新浜鴨場を含むその巨大なエリアは、かつてそこが遠浅の海であった名残を今に伝える。 周囲は昭和の半ば以降、大規模な埋め立て事業が展開され、それ以前の風景はこのエリアに限定して残るのみ。 「市川野鳥の楽園」とも呼称されるこのエリア内への人の立ち入りは大きく制限されている。 ごく一部に通された遊歩道は、かつての海岸線の位置とほぼ重なる。 その遊歩道がエリア内の中間地点で大きくカーブする地点に当該建物が建つ。

この外観を「近代建築の五原則」に結び付けるのは無理があるだろうか。 しかし、そこに定義づけられる屋上庭園以外の要素が、この建物には素直に表現されている。 つまり、水平方向に連続する窓。構造から切り離された帳壁。そして基壇部のピロティ空間。 更に、屋内も主要構造体とは切り離されたプランが展開する。


写真2:
南西側外観


写真3:
南側立面見上げ

もっとも、一階のピロティは五原則の提唱者ル・コルビュジエ の作風とは大きく異なる。
軽やかに建物を持ち上げるというよりは、基壇としてのどっしりとした構え。 遊歩道のカーブに沿って円柱が並び、そして分厚い庇が弧を描くそのピロティにはテラスが設けられ、遊歩道を散策する人々の休息の場として、あるいは鳥獣保護区の観察の場として開放された空間。 その背後の壁面は閉鎖的だ。 これは、屋内に展示室や視聴覚室がレイアウトされているため。 この閉鎖的な壁面や骨太のピロティ柱及び庇が、コルビュジエ的なものを遠ざける。

一方、二,三階に関してはプロポーションはともかく、水平方向に連続する開口部と平滑な白壁の組み合わせが、意図の有無は別として何となくそれらしき雰囲気を醸す。
水平窓に面した空間は、エリア一帯を観察するための室用途を収容。 眺望を確保するために穿たれた水平窓に面してカウンターが設けられ、等間隔に並ぶ固定席にはそれぞれ望遠鏡が備えられている。 席の配置と水平窓に組み込まれたサッシの割付けは同一モジュールに則る。 サッシ枠が眺望を遮らないための当然の配慮だ。
もとより、水平窓そのものが、単なるデザインではなく建物用途に対する蓋然性を持つ。 そのサッシは固定窓と上げ下げ窓によって構成されている。

切り取られ、そして人為的に保全された自然保護区域。 その中に建つ建物の在り姿として、それらの自然に溶け込むようにデザインすることも考えられよう。 例えばログハウス風にするとか壁面緑化をふんだんに取り入れる等々。 しかしここでは、近代建築的な素形をそのまま顕わして自然に対峙させることが選択された。 時に荒ぶる自然の中に清楚に屹立する白亜の砦。 遊歩道の中間地点に在って、そんな拠り所としてこの建物の居住まいが構想されたのかもしれない。



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