日本の佇まい
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旧平和生命保険千葉支社社屋
所在地:
千葉県千葉市
中央区中央1-2-10

備考:
現存せず

写真1:外観


中層規模のオフィスビルというと、接地階から最上階まで基本的なボリューム構成はそのままに均質な外表を構成することが一般的だ。
しかし、当該建物は基壇とその上に載る基準階のボリュームという二層構成が明解な外観。 恐らくそれは、保険会社の社屋という用途に供する建物として、接客に関わる下層階と執務空間にあてがわれる上層という機能分化の要請から生じたものなのではないか。

最下階は、プロポーションに配慮しつつ開口部を穿ちながら基本的に壁面を意識したマッシブな構成で基壇としての設えをなす。
一方の上部基準階外壁は、押出し成型セメント板とスチールサッシを共通のモジュールに則って各層ランダムに並べることで、均整でありながら変化に富んだ意匠としている。 施工性への配慮はもとより、内部環境に対する各階の同質性をも確保しつつ、それでいて表情豊かな外皮を実現しているところが面白い。
そして異なる上下二つの要素を分節しメリハリを付けるために、殆どを開口部とした二階部分が双方の間に挿入される。


写真2:
東側立面

写真3:
東側立面見上げ

ボリューム構成と外装デザイン。
この二つの形態操作によって周囲に連なる凡百の無機的なオフィスビルとは異なる佇まいが実現されていたが、既に存在しない。 私が初めて見掛けてから暫くして、除却されてしまった。
人知れず建ち上がり、経年の内に周囲に埋もれ、そしていつの間にか除却されてしまう小粋な建築達。 勿論、“粋”に纏わる定義は、人それぞれの価値観に拠る。 しかし、都市には各々が粋と視認し得る佇まいが溢れている。 それでありながら、大多数は気付かれることも無く物理存在を終え、その姿はひっそりと忘却に付す。 であるならば、せめて僅かな偶然によって気付き得たかけがえの無い風景は、個々人の価値判断に基づき何らかの形で記録あるいは記憶されるべきなのであろう。



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2016.11.12/記