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建築探訪
千葉県立中央図書館
所在地:
千葉県千葉市
中央区市場町11-1

設計:
大高正人/
大高建築設計事務所

施工:
戸田建設

竣工:
1968年6月

南東側外観


懸垂型としては、今のところ世界最長の営業距離を誇るといわれている千葉モノレール。 その県庁前駅に降り立つ。
この形式特有の豪放な橋脚と近未来的な駅舎、そしてその周囲に建ち並ぶ巨大な官庁舎群が織りなす都市の風景は、どこか非日常的。 しかし、ほんの少しだけ東方向に歩を進めると、風景は二階建ての木造家屋を中心に中低層の建物が雑多に連なる凡庸な景色に一変する。 そんなギャップを愛でつつ更に歩を進めると、この図書館が見えてくる。

下総台地から舌状に突き出た崖端に寄り添うように配棟された建物ボリュームは、道路から見上げると粗い斫り仕上げのコンクリート壁が幾重にも屹立し、背後の台地を深々と覆う樹々との豊かなコントラストを描き出している。 更に、そんな外壁群と一体になった大仰な階段が、台地の上部を目指して建物の向って右手に配置されている。 その階段を昇ると左手に図書館のメインエントランスが見えるが、階段から続く通路は更に奥へと伸び、その先には千葉県文化会館の堂々とした立面を臨むこととなる。
つまり、そこは市内の文化的な拠点。 大仰な階段の上下を挟んで、文化拠点と日常的風景が対峙する。



南側外観
軒先詳細
※1

閲覧室天井
外観軒先やエントランスホール等と同様のグリッドシステムが確認出来る。 グリッドを構成する十字形PCaのジョイントがスラブ段差部にてそのまま露呈。 意匠として活かされている。

※2

階段を昇って正面に進んだ先の白い建物が千葉県立文化会館。 左手に県立中央図書館。

そんな結節点に建つ図書館の外観を改めて眺めると、道路側から見上げた際の印象とは異なった雰囲気を持つ。
深く持ち出された軒が作り出す水平ライン。 その軒裏は、ワッフルスラブを思わせる構造形式が確認できる。
ワッフルスラブの断面が切断されたように露呈して軒先を形成。 スラブのリブが、軒下の陰影の中に等間隔に浮かび上がり、外観に一定のリズムを刻印する。
改めて述べるまでも無いが、この直截なスラブの切断状態は、建物そのものの拡張の可能性を示唆した架構システム、つまりはメタボリズムの思想に依拠している。 内部用途の要請や変化に応じて任意に拡張可能なグリッド形式。 その構造的特性がそのまま外観の特徴に顕れている。

同様のスラブが前面に大きく張り出して庇を成すエントランス廻りには、複数の壁面が細心の意を払ったプロポーションのもとに配置され、来館者を迎え入れる設えを形成。
そして屋内に入って天井を見上げれば、外観においても確認されたグリッドシステム※1がそのまま内観の特徴を形づくる。
ワッフルスラブ状の天井面は、十字形を連ねた同一規格のPCa版を複数連結させたもの。 つまり、拡張性を持つメタボリズムの建築形式は、プレファブリケーションによって成立している。 と同時に、単に施工性等の技術面の先行に陥ることのない秀逸な意匠性をも実現している。


エントランスホール見上げ

ピロティ廻り

スラブのグリッドが規定するモジュールに則った空間構成が貫かれて凛とした佇まいが漲る内部を一巡し、再び外へ。
PCaの多用とメタボリズムの反映という建築的な特徴は、例えば同じ設計者に拠る旧栃木県庁舎議会議事堂や日本大学生産工学部図書館等と同質のテイストを持つ。 そしてその特徴的な外観は、その向こう側に鎮座する千葉県立文化会館も同じ設計者によってデザインされることで景観としての相乗効果をもってその場に固有の雰囲気を醸成している※2

いわば、一人の建築家の構想による都市的領域の顕然。
しかしその様態は、舌状台地の末端で唐突に途切れる。 大仰な階段を降りる際のその目線の先には、この建物にアクセスする際に通過した日常的な風景が漫然と広がる。



2015.02.21/記