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建築探訪
第5石田屋ビル
所在地:
山口県山口市
小郡下郷1235-8

写真1:駅前広場からみた外観


※1
北東側立面。
三階より上のバルコニー風の箇所は、背後の壁面が全面50角タイル張り。 手摺状の部分は下端出隅に大き目のR面をとり、立ち上がり中央にスリットを切ることで、ささやかながらも表情を作り出している。
右手の開口部を持つ部分は階段室。

新幹線の敷設と共に整備された新駅周辺というのは、どこも似たような印象を持つ。 小綺麗な駅前広場の周囲に計画的に区画された街区が広がり、ホテルや集合住宅やオフィスビルが散在する。 つまりは、歴史の堆積があまり感じられぬ。
初めて新山口駅を訪ねた際にも、そんな印象を持ってしまった。 何せ駅名からしていかにも山陽新幹線の開設と同時に整備された駅の様に思えてしまう。 それに、駅南口(新幹線口)側は明らかにその様な風景。
しかし実際はそうではなく、開業は明治期まで遡る。 もともとは小郡駅といい、新幹線開通後も暫くはその名称が用いられていた。 従って在来線の駅が既設で存在し、逆側の北口(在来線口)に廻るとやや趣きを異にする風景が広がる。 駅周囲のこじんまりとしたエリアに、今となってはちょっと味わい深い雰囲気の新旧の建物が混在するのだ。

そんな混在状況の一部を捉えた画像が、写真1。 手前に木造の店舗群がひしめき、その向こう側にRC造のやや時代を経た五階建ての建物。その背後に近年建てられたのであろう全国にチェーン展開する高層のビジネスホテルが建つ。
恐らくかつては手前の更地部分にも低層木造建物が並び、現在残る同様の建物群と併せて駅前の賑わいを醸成していたのであろう。 そんな一画に、RC造5階建ての建物が竣工した際は、周囲に対し突出した高さを誇っていたのではないか。 そして近年になって、更に高層のビジネスホテルが建てられた。
あたかも露呈した地層を観るが如く新旧の建物が折り重なる風景が駅前広場に面して確認出来て面白い。

これらの連なりの中で特に興味を持ったのが、中ほどに建つ当該中層建物。 下部二層を賃貸の店舗ないしは事務所の用途、三階以上を共同住宅とした複合建物。
道路側のファサードは文中及び左の画像の通り。 開口部が多用された非住宅用途としての下部二層に対し、上部三層は極めて閉鎖的な構え。 タイル張りの壁面から少し持ち出す形でコンクリート打放しの腰壁がバルコニーの手摺の如く取り付いている※1
といっても、仮にこの部分がバルコニーだとしてもその機能は不明。 避難経路にしては垂直動線が確保されていないし、そもそも無窓なのだから日常使用を想定したものでも無い。 メンテナンを考慮したのか、右手の方に手摺に隠れるように躙り口様な鋼製出入口扉は付いているものの、用途不明のバルコニーだ。
もしかすると、別項に記載のベニア商会本社ビルや、あるいは紀伊国屋書店新宿本店の様に、反り上がる庇を積層させた意匠を意図したものなのだろうか。 それによって、普通であればタイル張りの平滑な一枚の大きな壁で終わってしまいそうなファサードに表情を与えている。

建物側面に廻ってみる。
上層の共同住宅部分は、住戸のバルコニー。下層はカーテンウォールが取り付いている。 住戸バルコニー手摺とカーテンウォールの割付けに共通のモジュールを設定。 全フロアを縦に貫くマリオンを等間隔に並べることで、上層と下層で異なる意匠の調整を図っている。
各住戸バルコニーの上部には、日射遮蔽を意図した横ルーバーが、このマリオンの間に設置された様だ。 今はその殆どが取り外されてしまっているが、その支持材が残っている。

かつて、木造建物が密集していたのであろう駅前商店街の只中に、突出した高さの複合建物を建築することとなった。 それが「下駄履きアパート」と呼ばれる市街地再開発住宅の位置づけであったのか否かは判らぬ。 しかし、駅前にそそり立つ建物として、その立ち位置を踏まえた意匠を整えようとしたのだろうか。
そんな意図がそこかしこに読み取れる建物だ。



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