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建築探訪
柳川交差点前の円形建物
所在地:
岡山県岡山市
北区中山下1-2-1

写真1:外観.1


※1
ちなみに桃太郎大通りは、幅員50m。 それと交差する柳川筋も幅員36m。
共に、復興計画時にこの大通りの整備が策定された様だ。

※2

写真2:航空画像*1
柳川交差点の俯瞰画像。
巨大な円環の内側に十字の交差点が設けられ、更にはその四隅に導流路が取り付く。 そしてこの円環に外接するように、写真右下部分に当該建物が立地する。

JR岡山駅周辺を散策していた折、この建物が目に留まった。
広い幅員を伴う幹線道路の交差点に面してゆったりとした円弧を描きながら建つ低層建物。 建てられてから相当年月を経ていることは明らか。 しかし、周囲に屹立する中高層建物群に対して一歩も引かぬ存在感を醸し出している。

少々不思議なその佇まいに惹かれて歩を向けてみると、建物が面する交差点自体も何やら奇妙な形をしていることに気付く。
名称は、柳川交差点。 桃太郎大通りと名付けられた駅前の目抜き通り(正式な名称は「駅前城下線」)と柳川筋と呼ばれる道路どうしが交差する箇所※1
その夥しい交通量を効率的に捌くため、左折フリーの導流路(左折路)を四つ角全てに設けている。 これは時折見かける形式。
特異なのは、この導流路を含む交差点を取り巻く歩道が巨大なサークル状になっていること※2。 あとで調べてみると、その半径は60m。 通常、歩道がこの形状ならば、車道もラウンドアバウト(環状交差点)の形式を採る筈。 ところが不思議なことに、敷設されているのは導流路を伴うほぼ整形な直交型交差点。 結果、円環状の歩道と導流路の間には剰余のスペースが生じ、そこは緑地帯となっている。 更に導流路と本道の間の交通島部分にも緑地が設けられているため、何やら複雑な状況。

少々興味が沸いたので、後日国会図書館にてこの交差点について調べてみると文献*2が見つかった。
それによると、この様な形式の交差点が造られた経緯は戦災復興計画まで遡るらしい。 戦災でその多くを灰燼と帰した市街地の復興にあたり策定された都市計画において、この交差点はラウンドアバウト型が構想されていた。 その計画に則り土地区画整理事業が遂行され、当初の予定通りラウンドアバウト型の交差点を整備する用地として半径60mの敷地が用意された。 しかしその後の道路敷設工事着手時期において、交通量が当初の予想を大幅に上回ってしまう。 ラウンドアバウト型では危険を伴うという判断から、通常の直交形式に改められた。
こんな背景から、今現在の交差点の状況が生じたのだそうだ。


写真3:外観.2

写真4:南側外観峙

さて、ここでようやく本題。
当該建物は、そんな交差点の南東側に半径60mの円環に沿う様にして建つ。 三階建て建物の二,三階部分は同規格のスチール製サッシによる横連窓が取り付くのみのシンプルな構成。 しかしその簡素な意匠が、たおやかな曲面(実際には多角形で近似している)をかえって強調する。 これは、道路敷設前の区画整理によって生じた敷地形状がそのまま反映された結果だ。
昭和32年に撮影された同地の写真を見ると、区画整理途上にある巨大な円形の更地に面して竣工して間もないと思われる当該建物が写っている*3。 その後当初の計画とは異なる形で整備された交差点と共に、この建物がここに立地する状況は、戦災復興の推移がそのまま露呈した風景と言えよう。

そんなファサードを暫し堪能した後、建物の裏手に回ってみる。
そこは、表側とは全く異なる様相(写真4)。 この建物が歩んできた半世紀以上の歴史の堆積が見て取れる。 つまり、この建物は表面も裏面も、戦後この街が歩んで来た歴史の表象と位置付けることが可能だ。

今のところ、建物名称を特定するには至っていない。
建物自体には館銘板の類いは見当たらず、ただ北側妻面に大きく住居表示のサインが掲げられるのみ。 国会図書館で関連する資料を追跡してみたが、設計者や竣工年を含め、それと思われる情報に辿りつくには至らず。
なかなかに謎めいた建物であるが、再開発によって除却されようとしている。 その後に建つ高層建物も、このサークルを意識した基壇部が計画されている様だ。 都市の記憶は、規模と意匠を大幅に変えつつ辛うじて引き継がれることになる。



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引用した図版の出典:
*1航空画像:国土画像情報(カラー空中写真)<国土交通省>

参考文献:
*2:岡山市街地のロータリー交差点に由来する円形状空間の独自性とその活用に関する研究 <北村尚子,樋口輝久,馬場俊介/土木史研究 講演集2005 土木学会>
*3:岡山の今昔―航空写真集<山陽新聞社>

2014.12.20/記