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建築探訪:十日町市役所松代支所庁舎(付;十日町市役所本庁舎)
所在地:
新潟県十日町市
松代3252-1

竣工:
1966年10月

設計:
ヤマザキ建築事務所

施工:
猪又建設

北越急行ほくほく線まつだい駅から目的地に向けて路線バスに乗車しているさなか、その車窓から当該建物が見に留まった。 二階以上の各層の四周に廻した片持ち形式のバルコニーに取り付く手摺の形態が何やらただならぬ雰囲気。 特に隅角部の処理に意匠への強い拘りを感じる。 直後に「間もなく松代支所前」という車内アナウンス。 その日の予定には組み込んでいなかったが、帰路はこの停留所で途中下車しようと即決したことは言うまでもない。

そんな経緯ののち眺める当該建物は、前面道路から幾分後退して配棟されている。 接道面の間口がやや狭く、奥の方に纏まった広さが確保されている敷地形状から導き出されたものだろうか。 前面道路と本棟の離隔を繋ぐアプローチの直上にはエントランスキャノピーが長く伸びる。 そのキャノピー基端と本棟の間には塔状ボリュームが屹立している。



南東側外観
西側全景
南西隅角部見上げ

※1

一階外部小開口。
北側妻面のもの。 四方枠の処置に意匠的配慮。

※2

本棟内の階段。
分厚い部材断面を持つ木製の側桁や手摺笠木が安定感を醸す。

付記

十日町市千歳町3-3に立地する十日町市役所本庁舎。
その上層階隅角部も、意匠性を伴う独特の措置が見受けられる。 1968年築。

キャノピーや本棟はその意匠から1960年代に建てられたものと容易に推定できるのに対し、塔状ボリュームは明らかに後補のもので異物感が免れ得ぬ。 その用途がエレベーターシャフトであろうことは外観目視から容易に想定可能。 それまで昇降設備が階段に限られていた当該建物に、ユニバーサルデザインの観点から近年になってエレベーターが増設されたのだろう。 そして増設シャフト背後の既存本棟には、ところどころに耐震補強のブレースが増補されている。
これらの事々からは、経年の中で必要な措置を都度施し大切に供用し続けてきた様子がうかがえる。

キャノピー下のアプローチを通り塔状ボリュームまで歩を進めると、正面に出入口。 その建具の手前の柱に木製の館名板が掲げられていて、建物用途がバスの停留所の名前にもあった松代支所であることを確認。 更にその傍らには、塔状ボリュームの箇所が2012年に整備されたものであることが表示されている。
屋内に入るとそこは想定通りエントランス兼エレベーターホール。 加えて階段も組み込まれている。 ホール内に掲げられた館内案内から、十日町市立図書館の分室が建物内に設置されていることを知る。 定礎が見あたらないため、建物の来歴を調べるべく三階の図書館分室に向かった。
分室の隅に配された郷土資料の書棚には過去に発行された広報の縮刷版。 職員の方にも話を聞きながら当該建物が建てられた年代に見当を付けてページをめくると、目的の記事が幾つか見つかった。

完成予想図

冒頭に示した建物データはその記述に拠る。
更に別の記事には計画段階の外観完成予想図。 そこには現況とは異なる塔が同じ位置に屹立している。 併載された平面図をみると、かつては階段室のみ。 更に塔屋部分もより高く設定されているためにとてもスレンダーで、現況よりも外観プロポーションは良い。 また、竣工写真を見ると西面は全層ガラス張りとなっており、塔屋階が展望室の用途に供していたとも考えられる。

平面プランは、二行五列の整形なRCフレームの中に諸室を配置。
一階に設備室や倉庫を集中し、その用途ゆえに外部開口の多くを小窓に留めた措置は、冬期の積雪を鑑みた気候条件への配慮か※1。 豪雪地帯という地理的与件への対応は前述のキャノピーにも当てはまるのかもしれぬ。 長いアプローチ直上に設けられたそれは、降雪時において雁木と同じ機能を担うことだろう。
本棟内にも階段が配置されている※2が、それとは別の階段室を塔状の独立した棟として設けた理由。 それは有事の際の避難の円滑性確保のほか、職員と来庁者の動線分離の目的、更には地域の拠点としての庁舎の外観に象徴性を与える意図もあったのではないか。

屋外に出て改めて建物全体を見上げ、竣工時の様態をイメージし重ね合わせてみる。 かつては階段室と展望室を組み合わせた塔が配置されていたこと。 そして最初に目に留まったバルコニー手摺への意匠性の付与。 それらは同じ時代に国内各地に建てられた庁舎建築の潮流と強く結びつく。



 
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参考文献:
広報まつだい(本文中の完成予想図は当該資料から引用)

2022.06.11/記