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建築探訪
春秋会館(旧県立高田保健所)
所在地:
新潟県上越市
本城町5-3

竣工:
1964年8月

規模:
RC4F
1272平米(竣工当時)

写真1:南側外観


城下町としての長い歴史を持つとともに豪雪地帯という気象条件がもたらした雁木の街並みが面的に残る上越市高田。 駅を降り立ち東方向に歩を進めると、やがて高田城跡が見えてくる。 今は高田公園として整備され、文化施設やスポーツ施設が散在するその公園の更に東側、かつて高田城の本丸を円環状に囲っていた二の丸の南東部分に当たる場所に建つ上越地域振興局庁舎の南端に、当該建物が位置する。 T字型の交差点に面して建つこの建物は、エントランス脇に「春秋会館」と墨書きされた木製の大きな館銘板が掲げられている。
その外観は、写真に示す通り。 隣接する他庁舎施設とは大きく異なる。 独特な屋根形態を持ちつつも矩形にまとめられた庁舎に対し、この春秋会館は円筒形。 しかも外装に用いられているディテールに、隣接する庁舎施設との共通性は一切見受けられない。 この異物感は如何なる背景によるものなのか。

周囲とは異質な外観を見挙げ、取り敢えずはそのディテールを確認してみる。 ペントハウスを含めて四階建て。 但し敷地と前面道路のレベルの関係から、メインエントランスは二階部分となっている。 車寄せを伴うエントランスを覆うキャノピーは、その先端を支える柱の形状も含め、単純な形状ながらプロポーションに意が尽くされている。 二階および三階部分は、円形の外壁に沿って同心円状に持ち出し形式のバルコニーが廻る。
この手のバルコニーの場合、その手摺の笠木部分は支柱間を直線とした多角形にて円を近似する場合が多い。 しかしここでは、しっかりと同心円の曲面で構成されている。 近くに寄って確かめてみると、笠木は各支柱ごとにジョイントされている。 恐らくはプレキャストコンクリート(PCa)製のもので、同じ曲面を伴う同形のパーツをいくつも別途製作したうえで現地にて組立てて円環を形成したのであろう。
天端外側に刳型を設け、内側の側面にテーパーを施した支柱もPCa製なのではないか。 その支柱を吹き寄せに組んで等間隔に並べることで、外観に表情とリズム感を与えている。
屋上の分厚いパラペット側面にも柱スパンごとに縦長のスリットを設けることで、のっぺりとした印象を和らげると共に雨水排水管閉塞時のオーバーブローの機能も果たすのであろう。 外壁の殆どに用いられた連窓は大半がアルミサッシに交換されているが、一部には竣工時からものと思われる木製サッシが付く。

建物自体は開館していなかったので屋内は確認するには及んでいない。 エントランス扉のガラス面から屋内を少し覗いてみるが、内観構成はよくわからぬ。

ということで、とても興味深い建物。 何か来歴が判るものはないかと、定礎の類いを探すが見つからず。
それではと、近傍の市立図書館の郷土資料室にて調べてみたところ、元々は県立高田保健所として建てられたものであったことが判った。 そのほかに判明した建物概要は、冒頭の左側に記載した通り。

資料の中には、「市内初の円形建物」と紹介するものがあったが、その建築年は国内で学校建築などを中心に円形建物が興隆した時期と重なる。 恐らくは建築潮流に纏わる新進の意識を持ってこの建物が構想され、そして実現したのではないか。 ちなみに、開発局庁舎の竣工は当該建物よりも一年早い。 要求される規模や機能の違いが、隣接する公共施設でありながら異なる形態を生じさせたのであろう。



2015.10.24/記