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建築探訪
長岡市柳原分庁舎(旧長岡市役所庁舎)

所在地:
新潟県長岡市
柳原町2-1

建築年:
1955年9月

設計:
石本建築事務所

施工:
清水建設


写真1:東側外観
※1

写真8*:航空画像
中央のへの字型の建物が柳原分庁舎。 その周囲をUの字に囲う様に柿川が蛇行して流れる。

※2

写真9*
竣工時の外観写真

優美な曲面を伴う外観。 その立面は、桁方向全面に軽やかなカーテンウォールを纏う。
平面形態に曲線を導入しそれを建物外観に反映させる手法は、例えば同時期おいては1953年竣工の山田守設計による旧東京厚生年金病院が挙げられる。 その様な同時代性を印象付けつつ、しかし一方でそれは、不整形な敷地形状への対応という背景も考えられよう。 あるいは、敷地を不整形なものとする要因となっている敷地境界沿いを流れる柿川の蛇行の様態への呼応の意図が込められていたのかもしれぬ※1
結果、建物の正面にあたる南側の外観には庁舎建築としての構えを。 そして敷地に沿う柿川を挟んで北側に広がる戸建住宅街に対しては規模に比して柔らかな表情が付与された。

敷地東側の接道面から敷地内に少々アプローチした際に臨む外観が写真1になる。 そこには、曲面のファサードと、そして建物軒高に比して展望室を冠した塔屋。 更にその塔屋直下の最下階に車寄せのキャノピーが確認できる。


写真2:南側外観見上げ

写真3:北側外観

塔屋は、その南側立面の各層に円弧を伴うキャンチスラブが張り出す。
竣工時の外観写真※2を見ると、このキャンチスラブの鼻先の外形に合わせた曲面のガラス壁が上下スラブ間全面に取り付けられていたことが判る。 更に、現状の塔の上部にもう一層、ガラス張りの最上層が在ったことも確認される。
その最上層は、新潟県中越地震以降に除却された。 一層減じたことが建物全景のプロポーションに与えた影響は少なくは無い。 そして各層正面の曲面ガラス壁の除却が外観の雰囲気に与えた影響についても同様である。
一瞥した際に建物軒高に比して異様に高いという印象を抱く塔屋が、意匠性も含めて建物全景を調律する極めて重要な要素として周到に形態が策定されたものであったということが、皮肉にも現況に拠って顕然することとなった。

庁舎における展望室を最上層に冠した塔屋の設置。 それは当該施設の設計を担当した石本建築事務所におけるこの用途の建物に対する当時の拘りの要素でもあった。
同事務所の50年史に掲載されたこの年代の庁舎建築作品の多くに、様々な形状の塔屋が確認される。 また、その中でも柳原庁舎は大きく取り上げられ、そこには

初期の庁舎建築として代表的な作品で、階段室まわりに使用されている半円形のガラス窓は石本喜久治の作風を物語るもので、このころの庁舎建築にはしばしば用いられている。
※3

写真10:キャノピー詳細
庇を薄く見せるために逆梁が用いられている。 また、庇先端の形状や、庇直下の床面の仕上げに用いられた石の割付けにも建物の曲面を意識した意匠が確認できる。

と、コメントが記されている。

その塔屋を暫し見上げたのち、車寄せキャノピー※3に取り付く正面玄関から屋内入ると、長軸方向に中廊下が貫通しその両側に諸室が並ぶ。 建物全体の平面形状に合わせて中廊下も途中で緩やかな弧を描くため、両端を見通すことは出来ない(写真4)。天井を這う各種設備配管が円弧を更に強調する。


写真4:
中廊下

写真5:
建物中央部階段室

これら各フロアを連絡する建物中央設けられた折り返し形式の屋内階段は、設置箇所が建物の屈曲部であるがために三角形状の平面を持ち、その中央に生じた吹抜けが各層を貫通する。 その吹抜けに面してSUS製円形断面の竪格子が上下通しで等間隔に並び、外部開口を介して差し込む自然光と相まって、ささやかながらも美しい意匠を創り出す(写真5)。 そしてその階段は、直上に屹立する塔屋へと続く。

そんな垂直動線を介して至る各フロアの諸室は、外観を特徴づけるカーテンウォールの軽快な表現を実現すべく柱梁フレームを外壁面より後退させた納まりが確認できる。 また、中廊下との仕切り壁にはガラス入り木製建具が多用され、外部開口が両端に限られる中廊下に採光をもたらす。 更に、欄間に内倒し窓を用いて通風も確保する等、館内の空気質及び温熱環境に対するパッシブな配慮が窺える(写真6)。


写真6:
執務室と中廊下の仕切り壁

写真7:
最上階に設けられた議場
当該庁舎は1977年まで本庁舎として使われたのち、新庁舎の整備・移転に伴い分庁舎となった。 長岡市立科学博物館や中央公民館等の用途を併設しつつ2012年まで供用。 2016年に除却された。
 
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参考文献:
50年の軌跡<石本建築事務所>

*引用画像の出典:
写真8:国土地理院ウェブサイト
写真9:50年の軌跡<石本建築事務所>

2008.09.20/記
2020.02.22/改訂