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建築探訪
丸専デパート
所在地:
新潟県長岡市
大手通2丁目

建築年:
1960年12月

規模:
地下1階,地上6階

備考:
2007年11月除却

写真1:外観


※1

写真2
大手通り側の外観
下層の前面に見える水平の部材は「アーケード」。 降雪地域ということで、市街中心部の主要な歩道には、建物の2層分の高さをもつアーケードが連続して設置されている。

新潟県内第二の中核都市、長岡。 その駅前広場から伸びるメインストリート「大手通り」には、かつて数棟のデパートが連なって市の商業の中心地を形成。 大いに賑わっていた。 そんな一画に、当該デパートも立地。 活況に彩りを添えていた。

写真1は、表側となる大手通り側の外観(写真2)※1ではなく、裏面にあたる南側立面。
高層部の各階に大きく穿たれた水平に連続する横長窓。 そしてそれを鉛直方向に分節する階段やバルコニーの配列。 その無機的な構成の左手に、曲面で構成された無窓の塔が配置されることで外観に動的な印象が与えられている。 更に、開口部の少ない無表情の低層階が基壇となることで、外観全体が引き締められている。
この巧まざる構成美を補完するのが、時間の経過であろう。 半世紀弱にわたって風雪の作用を受け続けてきたコンクリートの塊は、圧倒的な存在感と豊饒な味わいを醸し出している。 時間の経過が、変哲もないデザインに豊饒さを付与することがある。 それは、設計や施工といった一時の行為では決して獲得出来ぬものだ。

そんな要塞の如き風貌の南面とはうって変わり、北側※1は商業建築としての整った表情が設えられている。 但し、写真2の外観に到る迄の間、数度にわたる増改築が繰り返された。 そのプロセスについては、当該デパートの設立の背景も含め「長岡市史」に言及がある。
個人的な記憶を遡る範囲におけるその外観は、最後の増築を終えた後のもの。 つまり写真2と同じ規模とはなっていたが、立面の状況は異なっていた。 左右半分ずつで異なるカーテンウォールが取り付き、あたかも隣り合う別の建物どうしを無理やり接合し一体化させた様な印象のもの。 後年、その分離状態を改善すべくカーテンウォールの表層に更にデザインウォールを付加。 一体の建物としての体裁が整えられた。

多段階の増改築は、昭和半ばにおける商業地としての大手通り界隈の進展過程がそのまま反映されたものだったのであろう。 そんな北側とは全く無関係に立ち上がる険しく個性的な南側立面。 その対比が興味深い建物であった。
しかし国内の多くの中核都市駅前既存中心街に見受けられる状況と同様に、都市近郊型大型商業施設の出店の影響等により同エリアの商業地としてのポテンシャルは低下。 事態の打開を目論むお定まりの再開発事業によって周囲一帯の商業施設と共に同デパートも除却され、今はタワー型マンションを含む新たな複合施設が建つ風景に取って代わられた。 その消滅過程も含め、当該デパートは近現代の同エリアの様相を映し出す鏡であったと位置づけることが可能なのかもしれぬ。



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2006.07.08/記
2017.03.04/改訂